救い

今回のnoteは「推し、燃ゆ」を読んだ感想です。ネタバレを含むので注意してください。


推しが、炎上した。

本の帯に書いてあるこの言葉を見たときに感じたのは、諦めのようなものだった。私自身、推しの炎上は何度も経験したことがあった。その度にSNSに張り付いて、炎上の経緯、周囲の反応を夜が開けるまで調べ尽くした経験がある。もはや把握しないと何も手につかなくなるほどだった。私の場合は、最終的に推しも人間だから仕方ないと思って、全身が冷たくなる感覚とともに無理やり寝るのだけど、その時のことを思い出しながら読んでしまった。

私は全てをかけて誰かを推したことはない。例えば、バイトで稼いだお金のほぼすべてを推しにつぎ込むことはしたことがなかった。そういう人がいるのは知っていたし、そこまでの愛情を持って推せる人のことをすごいと思った。しかし、失礼な言い方をするけれど、どこかが欠落しているのかなとも思っていた。

アイドルは自分の気持ちが沈んでいるときに胸の隙間に入り込んで、自分を持ち上げてくれる存在だと思っている節がある。私自身、アイドルに嵌るタイミングってやっぱり気持ちが落ちている時が多かった。自分の落ちているときに支えてくれた存在を神格化して、貢いでいくところはどことなく宗教に似たものを感じる。人間が生きる上で救いは必要なのかもしれない。

私がこの小説を読んでいて感じたのは、とにかくリアルな感覚だった。すべてをかけて推したことがない私でも感じるリアルさ、あのSNSの感じがほんとにいい意味でしんどかった。

推しの炎上と共に主人公の生活が見えてくるのも辛いものがあった。現代を生きる生きずらさが鮮明に現れていて、人々の分かり合えなさが描かれていた。上手くいかない日々が続く中で、何も無い自分が一生懸命になれることを推すことに見出す様はそこにしか取り付く島がないような悲しさ、引き返せなさがあった。

推しで頭をいっぱいにしてやりすごす生活が最後まで続いていく。主人公の人生が崩れていってもそれは変わらなかった。最終的に推しがアイドルを辞め、芸能界を引退することになり、アパートまで行ってしまう場面は現実味があった。それが推しの彼女かも分からないのに突きつけられる感覚は強制的に終わりを突きつけられた感覚がした。

最後に主人公は推しの起こした爆発的な騒動と自分の中の渦巻いていたものを発散させて、前にじりじりと進むことを決意していた。そこが読者にとっても唯一の救いに感じた。

私だったらどうだろう。ここまで推していて、ある程度の言動の予想もつくのに、ある日突然不可解な行動で炎上をし、芸能界を辞めてしまったら… 私の全てが無くなってしまったら… 

私は大人だから、自分を守るために救いを何ヶ所も作っていて、だめな時の保険を常にかけている。そういうずる賢いところで私が私を救って生きているのだと思う。

まとまりなく衝動のまま読んですぐに感想を残した。何かを推してても、推してなくても、読んで欲しいと思う本だった。このまで読んでくれた方がいればありがとうございました。 

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