実体験20 命は助かったものの、、
退院して、3ヶ月目。
体は元に戻った。
でも、商売道具にしていた声が、元に戻らないことがわかった。
声帯に異常が見つかったのは、3院目。
声帯を支える軟骨が僅かにずれていた。
人工呼吸器を2週間で3回出し入れした時に脱臼したようだ。
脱臼して2週間以内くらいなら、まだ処置ができたようだ。しかし、わかったのは、2ヶ月以上経っていた。脱臼した状態で、固まってしまっていた。
でも、それだけ命が危険だったから、一刻を争う事態だったから、仕方ない。
日常生活は問題ないが、声を商売道具にする仕事としてはNG。
かすれ声、声量がなく、音域が狭くなった。
フリーランスとして契約していたところは、3ヶ月休ませてもらっていたが、全部辞めた。
命が助かったし、声が全く出ないのではないから、新しく生まれ変わったと思うようにした。
でも、体が動かなかった。
体の方が正直に反応していたのだろう。
声で仕事を33年間積み上げてきた。
フリーランスで仕事を続けられるように努力をし続けてきた。
命の次に大事にしてきたのが声だったと言ってもいい。
正直、落ち込んだ。
絶望した。
泣いた。
泣いても以前のような声ではない。
テレビやラジオの声を聞いて、声を出してみるけど、かすれた声しかでない。
買物をして、レジの方が明るく元気に声を出せるのが羨ましかった。
周りの「声」に敏感になっていた。
他の人は
「問題ないよ」
「声でているよ」
「今のままで充分よ」
と言うけれど、私の中では、今の声に違和感しかない。他人にはわからない、微妙な違いが、まだ受け入れられていない。
元の声には戻れない、、、
以前の録音した声を聞いて、この声は終わったと気持ちの整理をしなければならない、、、
命を終わらせたかのように、別の声でこれから生きていかなくてはならない、、、
脱臼を見つけてくれた、耳鼻咽喉科医師&歌手&声帯研究者&ボイストレーナーにトレーニングを受けることにした。
彼はこう言ってくれた。
「以前の声がバイオリンだったなら、ビオラやチェロに楽器が変わったと思い、いい音色が出るようにしていきましょう」
光が見えてきた。