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お店とお店の人が好き

 お店が好きです。お店の人も好きです。お店って、直喩でも暗喩でもどちらでもなく、小売店などのことです。具体的には私が好きなものを販売しているお店のことです。特に本屋、化粧品売り場、服屋。
 私はこれらのお店について、忙しくて時間が取れないとき以外はなるべくリアル店舗に足を運ぶようにしています。なぜならば楽しいから。めちゃくちゃ楽しいから。
 私の趣味は店に行くこと。店員さんと話をすること。そしてその副次的結果として、好きなお店で物を買うこと。

 なにせこういった「ものをかうこと」を目的とした小売店では、店員さんとの会話はすべてお店側のサービスです。しかも店員さんは全員プロ。その道のプロ。専門家と話をするのにだって、お金がかかるサービスはたくさんあるのに、書店員さん、化粧品売り場のBAさん、ショップ店員さんと話すこと自体に現状の日本では支払いが発生するケースはほぼありません。
 店員さんにはお給料が支払われてはいますが、それは私の財布からは出ていかないわけです。いや、もちろん、厳密にはそれらはすべて商品の価格にはじめから含まれているわけですから、それも含めて購入者である私の財布から出ているといえば出ているんですけども、少なくとも店員さんとたくさん話した人ほど商品の値段が上がるわけではない以上、一旦店員さんとの会話は「狭義の無料」と設定していいことにしましょう(ECサイト購入者が払ったお金はBAさんへのお給料にもなるわけですが、それを言えばECサイトのサーバ維持費用だって同じように商品価格に含まれているわけですから、ウルトラざっくりトントンとしていいのではないでしょうか)

 そしてこの無料で話せる人たちが、専門家な上にとっても優しい。店員さんは商品理解のプロでありながら、消費者と話すプロでもあるわけです。これを両方兼ね備えた人の特殊性を私は痛感しています。どちらかうまいだけでもそれは十分特殊技能なのに、え? あなたがた、両方お得意でいらっしゃるんですか? しかも月曜日から日曜日まで、毎日会えるんですか? そしてこのお店の商品は私が好きなもので埋め尽くされているわけですけど?

 これは楽しくて仕方がないわけです。

 一方、実は私は「お金をたくさん使うこと」があまり得意ではありません。お財布の中身がすくなくなると、表現しがたい不安がふつふつとあらわれてくるのです。
「ああ、今日は500円使ってしまったなあ。そわそわ。」
「おお、今日は3,000円も使ってしまった。どきどき。」
「なんてことだ、今日は10,000円を! この世の終わりだ!」
 というような。
 自分で決めて欲しい物を買ったのに、買った途端になんだか心細くなってくる。手渡された買い物袋がずしんとおもたく腕に響いてくる。欲しい物を手に入れたくせに失ったものに目をとられるのは、あれは、ねえ、なんででしょうね。バカなのかなあと思いますよ。買うのを辞めたらやめたでウジウジするんだから手がつけられません。こりゃあ今世での改善は無理でしょうね。はい。

 だから私はすこしでも元を取りたい。ただ私のワガママは、少しでも安く買いたいとか、サンプルをくれとか、そういうことではないのです。
 店員さん。あなたの本の知識をください。このコスメがいかに美しいかを教えてください。いかにこのジャケットが個性的なのか教えてください。この商品の、この店の、あなたの好きな物の愛する思い入れを、それはつまりあなたの物語を私に伝えてほしいのです。そしてこのウジウジとした軟弱者の背中をバシっと突きとばして、勇気をください。
 心打たれれば、かならず買います。私はそのために来たのです!

 流石にここまではっきりドラマティックに伝えたことはありません。ただ私は人見知りという感情が欠落しているので、初対面の方にもどんどん喋ります(人見知りをしないのはきっと遺伝ではないかなということで親のせいにしておきます)。

 購入のポイントとなるところもなるべく伝えます。
 こういうものを探しています。予算はこのくらいです。こういうものが好きで、反対にこういったものは苦手です。◯◯と◯◯で悩んでいます。苦手な成分、素材があります。
 開示できる限りのことは開示して、さああなたは何を私に提案してくれますかと、あとは目で訴えます。

 多分、まあまあ気色悪い客だと思います。
 キショいはずです。
 仕事をしている皆様に、若干迷惑をかけているかもしれないなと思いますので、できうる限りの丁寧さで、守れる範囲の常識を守って過ごします。他のお客様に絡んだことはありません。なぜなら、私は自分がキショい自覚があります。自分で書いていて落ち込んできました。辞めたほうがいい気がしてきました。

 ただね、そうして手に入れたモノは、本当にすてきなんですよ。値段に関わらず宝物になります。お店のことも大好きになります。
 私はそうやってなるべく、好きな物を好きなお店で、プロにおすすめされて買っています。
 ショッピングっていいもんですね。
 

 
 


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