【ショートショート】 ラーメン
美味しくないラーメンの麺を啜りながら心の中でマズいと毒気を吐いた。
私はせっかく営業事務として入社した会社をさっき辞めてしまった。24歳にもなって正社員の会社を3社も辞めてしまうとは他の人から見たら、なんて根性なしに見えるだろう。
しかし周りの大人が怖くて仕方ないのだ。野心に満ちた男の人が経営者と言われる人達に労働力を搾取されてるのを見ていると恐怖だった。
自分は普通ではない。当たり前のことののできない人間だと自覚した。
もっといえば自分の自信のなさの裏返しとしてコンプレックスが噴き出してしまい、自分自身が野心家になり、偉くなりたいと思っていた。
24歳の時点で私は老害だったのだ。
私が大嫌いだった人を顎で使うような人間に自分がなりたがっていた証拠なのだ。
自分の立場を守るためだけのために働いている人間と全く同種の人間なのだ。
だから今回も失敗してしまったのだ。自分はどうしてこんなにも弱いくせに野心家になってしまうのか。
それは積み重ねた失敗の数な気がする。私は何一つ成功体験がない気がする。
弱いギャンブラーが負け分を取り返すためにギャンブルをするように、感情的になってしまい本能のままに行動してしまったのだ。
負けは負けなのだ。
私はまた負けたのだ。
負けを認めないからいつまでも負け続けるのだ。
とにかく来月の家賃を払うために、生活費を稼ぐために、どこかで働かないと。
そうか。
みんなが仕事する理由は承認欲求を満たすためではなく、生活費を稼ぐためなのか。
お金が原因で不幸になっているくせに私は未だにそのことに気づけなかった。
いや目を背けていたのかもしれない。
私は自分はまだ若いから後でなんとかなると高を括っていたのだ。
社会はそんなに甘くない。人一人が社会で生きていくのは厳しいのだ。
そう生きていくのは厳しい。
ただあのとき会社を辞める決断をしなければ、それはそれで生き地獄なのだ。
理不尽な社会で食べるラーメンは格別マズい気がした。
けど俺は必ずまたこの店ラーメン屋に来るだろう。
選んだ味のラーメンが美味しいのかは重要ではなく、選んでしまったラーメンを美味しくするのが人生だ。
私は近くに置いてあった調味料をふんだんにつかい自分の好きな味のラーメンを作った。