門限をやぶったとき
初めて出会ったのは飛び乗った電車のドアのそば。
「ねえ何の音楽聞いてるんですか」そうやって僕が君に話しかけたのがこの物語のはじまり。
僕は君がパーカーを着ているときの後姿が好きだった。あの黒いパーカー。
君と初めて入った喫茶店のマスターは うん あまり愛想がいいとは言えない人だった。
コーヒーの味もうまく思い出せない。
とりたてて美味しいかというとそうでもなかった。普通だったね。
そういえば、こっそりとネコがいた店だったね。
一緒に山登りをした時に「山登りって途中で下り坂の時もあるんだ」って君は言った。
きっとあまり 山登りをしたことはないんだろうなあ。
君は地図を読むのか苦手だった。
右と左と北と南がよくわからない人だった。
それなのに昔に話した細かいことはたくさん覚えてる。何でそんなこと覚えてるんだよ。
ぼくが「そんな話したっけ?」と言うと君はいつも「また忘れてるの?」って少し怒ったように言うね。
いろいろあって今は君とあまり会うことができない。
この世のものすべてがあまりにも悲しく見えてくる
こんな気持ちになるのもこの頃じゃめずしいことじゃない
眠れない夜君のせいだよ
君が好き 僕が生きる上でこれ以上の意味はなくたっていい
僕は、これ以上の意味を少しずつ見つけようとしている。
それが怖くてためらいながらも。自分のことと君のことをもっと好きになりたくて。