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一ノ瀬 織聖
2017年8月28日 00:07
第二章 三 「君が樋賀砂奈さんか、まぁ、座って。」視聴覚教室のドアを開けた私は、促されるまま椅子に腰かけると目の前に座る男性を見つめた。ダークグレイのスーツが似合うすらりとした体型に少しだけ崩した髪。黒縁眼鏡が無ければ、大学生でも通りそうなその見た目に、連絡係を買って出た石澤さんが、興奮気味に私に伝言を告げた理由が伺えた。「刑事っていうから、もっと年上で厳つい人かと思いました。」 週明け
2017年8月29日 23:46
第二章 四7月4日(日) もしも私が本当の名を最初から持っていたら、きっとこんな結末は選ばなかっただろう。だって、1年前の私はこんな事、ちっとも考えていなかったし、今が楽しければそれでよかった。本当にそれだけでよかったのに。きっと最後まで、平凡で地味だけどいつでも笑っていられる『誰か』で居られたのだろう。それが時々羨ましく感じる事もあるけれど。最後まで知らない振りをし続けることができたら
2017年8月20日 09:15
第二章 二 いつだって、思い起こせば輪を乱すのは私の役目だった。幼稚園に通っていた頃、いつも二人ペアで遊んでいる女の子達がいた。そこに私が入り込み、彼女達の仲を壊した。最初は三人で楽しく遊んでいただけだったはずなのに。一体、どこで道を誤ったのだろうか。 二人がいつもしていたお揃いの赤いリボンが地に落ち、汚れていくのをただ茫然と眺めることしかできなかった。男女が絡むと、尚更、事態は悪化した
2017年8月5日 12:33
第二章『それは世界の終わりを夢見るように単純なこと』一、 葬儀会場となった教会を出ると、空は今にも雨が降り出しそうな気配に変わっていた。足下のアスファルトを映し取ったかのような空の色は、風花が飛び込んだ真冬の冷たい海を思い起こさせる。「さーな。」空を見上げながら物思いに耽る私の名を、舌っ足らずな口調で呼んだのは、ストレートのロングヘアーが印象的な背の高い少女。出てきたばかりの教会の