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アラベスクもしくはトロイメライ

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2017年8月の記事一覧

アラベスクもしくはトロイメライ8

アラベスクもしくはトロイメライ8

第二章 三

 「君が樋賀砂奈さんか、まぁ、座って。」
視聴覚教室のドアを開けた私は、促されるまま椅子に腰かけると目の前に座る男性を見つめた。ダークグレイのスーツが似合うすらりとした体型に少しだけ崩した髪。黒縁眼鏡が無ければ、大学生でも通りそうなその見た目に、連絡係を買って出た石澤さんが、興奮気味に私に伝言を告げた理由が伺えた。
「刑事っていうから、もっと年上で厳つい人かと思いました。」
 週明け

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アラベスクもしくはトロイメライ9

アラベスクもしくはトロイメライ9

第二章 四

7月4日(日)
 もしも私が本当の名を最初から持っていたら、きっとこんな結末は選ばなかっただろう。だって、1年前の私はこんな事、ちっとも考えていなかったし、今が楽しければそれでよかった。
本当にそれだけでよかったのに。
きっと最後まで、平凡で地味だけどいつでも笑っていられる『誰か』で居られたのだろう。それが時々羨ましく感じる事もあるけれど。最後まで知らない振りをし続けることができたら

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アラベスクもしくはトロイメライ 7

アラベスクもしくはトロイメライ 7

 第二章 二

 いつだって、思い起こせば輪を乱すのは私の役目だった。
幼稚園に通っていた頃、いつも二人ペアで遊んでいる女の子達がいた。そこに私が入り込み、彼女達の仲を壊した。最初は三人で楽しく遊んでいただけだったはずなのに。一体、どこで道を誤ったのだろうか。
 二人がいつもしていたお揃いの赤いリボンが地に落ち、汚れていくのをただ茫然と眺めることしかできなかった。男女が絡むと、尚更、事態は悪化した

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アラベスクもしくはトロイメライ 6

アラベスクもしくはトロイメライ 6

第二章

『それは世界の終わりを夢見るように単純なこと』

一、

 葬儀会場となった教会を出ると、空は今にも雨が降り出しそうな気配に変わっていた。足下のアスファルトを映し取ったかのような空の色は、風花が飛び込んだ真冬の冷たい海を思い起こさせる。
「さーな。」
空を見上げながら物思いに耽る私の名を、舌っ足らずな口調で呼んだのは、ストレートのロングヘアーが印象的な背の高い少女。出てきたばかりの教会の

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