ツインレイ小説第二部より抜粋⑳
帰ってきて手を洗っていると、洗面所の鏡越しに、彼がいた。
私をそーっと抱きしめて、頑張った、って。僕のために頑張ってくれた、とも言ってくる。
すぐ、にはできないかも、って私は、しゅんとして、言う。
年内にも離婚届を出すこと、私が家を出ることなんて、夢のまた夢みたいにも一瞬思えてしまう。
彼の前ではあんなに威勢よくカッコつけて言ったのに、って私は思ってる。
当然じゃん、って彼は言う。
ダンナさんは、男性として、君のこと求めてるんだから。そんな簡単に手放すわけないじゃん、僕がダンナさんでも離すわけないし、って笑う。
あなたの奥さんもそうなの?って私は聞く。
あなたのこと、手放したくないって思ってるの?って。
うちとは、違う、って彼はそれだけ言う。
その日の夜、夫が夢に出てくる。
駐車場に停めた車から降りた私は、道の反対側に、気になる場所を見つける。
観音さまのような、祠のような、石窟のようなものがある場所。
私は、道路を横切って、そちらに向かう、と夫も一緒に来る。
石像のようなものや石に彫られたものがいっぱい並んでる。
よく見ると、石像の前や祠の中、あちこちに紙が置いてある。
黒いペンで、いろんなことが書かれた、白い紙。
それは、私がこれまで、観音さまに、宇宙に、願ってきたことの数々。私のアファメーションが書かれた紙だった。
私と彼の名前がしっかり書かれたその紙には、私が願った、私たちは幸せになります、とか、私たちは愛し合って幸せに暮らします、とか、そういうことがいっぱい書かれていて、そういう紙が、そこかしこに、たくさん置かれていた。
私の魂からの、願いの数々。
いつの間にか私より先に歩いている夫には、全部全部見られてるはずで、私は、目の前にあった一枚をとっさに手に取って握りしめて、ごめんなさい、って夫に、言う。大きい声で、言う。
何で私、ここに立ち寄ったんだろう、自分から夫を連れてくるようなことしたんだろう。
駐車場から真っ直ぐ、そのまま、進めばよいだけだったのに。
何でわざわざ、道路を横切って、こっちに来て、自分から、彼とのことを夫に教えるようなことをしたんだろう。
って、私は思ってる。
でも、私は道路を横切ったのだ。
間違いなく、acrossしたのだった。
もう戻れないのだ、ということも。
私より二つ年上の女性もいる。
ここにも紙あるよ、って夫に見せてる。
多分、夫の、魂のお相手。
離婚した後、夫が再婚するであろうお相手。
夫は、私を見てる。
責めるでもなく、ごくごく普通の眼差しで。
飛びたいんでしょう?って言ってくる。
飛び立って行きたいんでしょう?って。
肩甲骨の辺り、羽根、見えてるから、って言ってくる。
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