「あなたのための短歌集」を読んで〜あなたと誰かのこと
noteのいいところは、文字数に決まりがないところ。
書くことがなければ短くてもいいし、説明を尽くしたければたくさん書くこともできる。
原稿用紙何枚以上何枚までみたいな、夏休みの宿題的な制限がないのは、とっても自由で、いい。
私はもともと、まわりくどい書き方をしちゃうタイプで、だから、短くスパっと言い切ったり、端的に表現できる人にとても憧れている。
文体としても、もしかしたら生き方そのものみたいなものも。
短くて、端的な表現。
その最たるものが、短歌かな、と思う。
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この本は、歌人の木下龍也さんという方が、依頼者の方からお題を受けて短歌をつくり、それらをまとめた百首が収められています。
メールでお題と共に依頼され、つくりあげられた短歌は、木下さん自ら便箋に手書きで書き、封筒で送ってくれる。
100人の方との、そんな素敵なやり取りから生まれた、素敵な歌集です。
それぞれのお題、依頼者からのメールの文面と共に、短歌が載せられているので、ああ、こういう思いでこの方はこのお題で依頼して、そうしてできあがったのがこの短歌なのね、ということが分かる。
お題はさまざまで、大好きな名前の一文字をとってつくって、というのもあれば、深い悩みの中からの依頼のものも、今は会えない人を静かに思ってのものも、いろんなものがある。
読みながら、私はいろんなページで泣いていた。
依頼者の方の思いや悩みは、全て、日々を懸命に生きていたり、自分の心や周りの人と、真摯に向き合おうとしているからこそ出てくるものに違いなくて、それをまた木下さんがしっかりと受け止めて、自らの身を削るように生み出してくれた、そんな短歌の数々だからだと思う。
私は、誰もが心の中に、秘密の引き出しを持っていると考えている。
そこに入っているのは、人には言えないこと、言いたくないこと、自分でも見たくないような隠しておきたい気持ち。
もしかしたら小さい頃に傷付いたこと、意地悪しちゃったこと、ろくでもないことを考えちゃったこと、誰にも言えない秘密とか、そんなのが入ってる。
それは、自分だけの引き出しで、誰に見せる必要もないけれど、でも、それって、もしかしたら、ほかの人も似たようなものが入っていたりするんじゃないかなって。
誰もが同じ、ではなくとも、似たようなものが入ってる人、分かり合える人って、世の中に絶対いるよね、って、そんなふうに思う。
だから、自分の引き出しに入れておいたままで、当然いいんだけど、でももし、入れといたまんまでいるのがつらくなったら、引き出しをあけて、取り出して、誰かに話してみてもいいんじゃないかなって。
誰かの悩みが、それを話してくれたことから生み出された短歌が、全然関係ない私の心を癒やしてくれたように。
あなたの悩みが、いつか誰かを救うかもしれない。
痛みとか悩みとか、ヒリヒリしたような気持ちとか、きっと誰もが持っていて、目の前の悩みとしては人それぞれでも、その奥の気持ちにはきっと普遍性がある。
誰かの痛みはあなたの痛み。
誰かの傷が癒やされた時、あなたの傷も癒やされる。
そんなことが起こりうる。
だからこそ、私たちは、文学とか音楽とか、アートに惹かれて、癒やされて、生きていけるのかもしれない、とも思う。
誰かが、頑張っている。
傷を負った誰かが生きている。
この痛みは私だけのものじゃない。
私だけじゃない、って思えること。
それだけでも救いになることって、多分たくさんある。
引き出しに入ってる時は、私だけ、の痛み。
私、が何とかするしかないだけの痛み。
でも、ちょっと目を転じれば、ああ、隣の誰かも同じような痛みを持っていた。
そんなふうに気付くだけでも、ちょっとラクになる。
その時、あなたの悩みは、あなただけの悩みではなくなってる。
あなたはあなたの経験を、痛みを糧にできる。
そうして、光を放ち、周りを照らすことができる、そう思う。