器
彼と別れてから、「私って空っぽだなあ」と時たま思うようになった。
感情の大事な部分が満たされていないと感じていたのは昔からだったのだが、この心の空洞は彼に出会う前の私が抱いていたものとは違う。
それは、今までなかった愛情の受け皿が彼によって私の中に作られたからだと思う。
初めて人に無条件に好きになってもらったことで、今まで完成していなかった器が完成してしまった。
それらしきものは昔からあったはずなのだが、常にヒビが入っていて、親からの何気ない一言で簡単に壊れてしまう、紙粘土でできているような、小さくて、非常に脆いものだった。
彼が作ってくれたそれは突貫工事レベルの速さで出来たにも関わらず、とても丈夫で大きな器だった。
初めて心から信頼できる人だった。
初めて全てをさらけ出し、何もかも捧げた人だった。
彼への信頼や好きだと思う気持ちが厚くなっていく度、それに比例するかのように器もだんだん大きく、厚くなっていった。
一緒にいる時はずっとそれが満たされ、会えない時に少し減ってはしまうものの、彼からの言葉や優しさでまた満たされていく。
完全に無くなってしまうことなんてありえない。
これからもずっとこんな風に満たされ続けているものなのだと思っていた。
しかし彼はいなくなり、中身ももう空っぽになりかけている。
それでも彼が作ってくれた器をなんとか壊すまいと、彼との関係がぐらつくたびに薄くなったり、ヒビが入ったりした箇所をひたすら修繕している。
だって、それは私がずっと欲しかったものだから。
いくら中身が空っぽで、それだと意味がないと他の人に指摘されたとしても私の宝物には変わりがないはずだし。
彼が作ってくれたものだから、彼しか満たすことのできる人はいない。そう思ってしまう。
彼のことはスパッと諦めて連絡もやめて、他の人を好きになった方が楽なのかもしれない。
それは私も分かり切ってはいるものの、他の人を好きになるということはその器を壊さないといけない。
大事なものだからこそ、生涯で一番と言い切ってしまえるほどに好きな人だからこそ、軽々しく他の人が新しく作ってくれたものと並べたくはない。
彼がくれた宝物を叩き割ってまで彼への気持ちを無かったことにしたくない。
まあそれは建前で、単純に彼が誰かと付き合ったり結婚したりすることを考えただけで発狂しそうになってしまうため、私がこのまま彼のことを好きで居続けたら、絶対に彼が私の隣にいる未来が来ると信じていたいだけなのだが。
たまに彼がどんなタイプの女の子が好きなのかを考える。
次付き合う子はどんな子だろうか。
私以外の、どんな人と付き合うの?どんな人と結婚するの?
私より背が低い子じゃないと嫌だ。
私よりスタイルが良くて、おっぱい大きくて、姿勢が良くて、すっぴんでも可愛くて、でもメイクはちゃんとしてて、愛嬌が良くて、料理が上手で、ひらひらの服が似合うような女の子らしい子じゃなきゃ。
家庭環境も良くて裕福で、親と仲が良くて、メンヘラなんかじゃなくて、こんなブログみたいにひたすら元彼のことを引きずったりしない子。
八方美人じゃなくて、でも周りから人気で、そこそこ男性経験があってキスもフェラも、セックスも上手で、自分の顔が嫌いだとか、性自認がどうとかで悩んだことがないような、そんな私とは比べ物にならないような子じゃないと、どこにでもいないような子じゃないと、嫌。
私じゃだめなんだってことはとっくの昔にわかりきってる。
でもね、私にはあなただけだったよ。
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