「最近さあ、すごい綺麗になったよな」 ふわふわした声で、電話の向こうの彼が言った。 「人が足りないから」と連れ戻された前のバイト先のバーは、平日は常連さんが1人来たらいい方で、基本めちゃくちゃ暇だ。 その日もほぼ毎日来てくれる常連さんが1人来て、1時間前後ラーメンの話をしていた。11時頃にいつもより早めに帰った後、携帯を見ると彼からの不在着信があった。 かけなおしちゃダメだと思いつつも彼から電話してくることが滅多に無いため、気がつけばLINEの通話ボタンを押していた。
バイトの帰り道に彼と家まで一緒に帰っていた時、彼からふわっとシャンプーの香りがした瞬間、「抱きしめたい」と思った。 自分から好きな人に触れたいと思ったのは多分その時が生まれて初めてだった。 男の人が苦手になったのは高校生の頃。帰り道に痴漢にあったことがきっかけだった。 触れられたのはだった0.数秒。それでも5年近くたった今も鮮明にあの瞬間がフラッシュバックする。 当時、付き合っていた彼氏はいたが、キスどころか手を繋ぐこともなかった。それでも一緒にいるだけで楽しかったし
私の下の名前は『桜子』という。大好きなこの名前は、大嫌いな父がつけてくれた。 正直名前負けしているとは思うけども、この名前をつけてくれたことに関しては父に感謝している。 いつも家族は名前を、友達は名字をもじったあだ名で呼んでくる。 だから彼は私を『桜子』と名前で呼んでくれる唯一の存在だった。 彼と付き合っていたのはほんの少しの間だけ。それでもその日々があるから今も生きていけるのだと言いきれるほど私にとっては宝物だった。 可愛いとたくさん言ってくれた。 深夜
彼はずるい人なのかもしれないと、別れて一年近く経った今もぐるぐると考えてしまう。 彼はいつも私の家に泊まりに来るとき、必ず先に自分の家に帰って、シャワーを浴びてから私の家に来ていた。 彼が抱きしめてくれる度、私と違うシャンプーの匂いがする彼に少し寂しさを感じつつも、大人の恋愛なんてこんなものなのかもしれないと思おうとしていた。 だけど、別れる前に最後に会った時に訪れた居酒屋さんで彼が何気なく言った言葉のせいで、全てが腑に落ちてしまった。 「今職場で席隣の人いるじゃん?
彼はよく元カノの話をする人だった。でも、彼はいつも元カノを落として、私のことを褒めてくれた。 きっと彼も悪気があってそういう言い方をしてしまうんじゃない。 もう元カノのことが嫌いだからとかいうわけでも無い。 だから、彼が元カノの話をするのを聞いて少し胸がちくちくしたとしても、今、彼が好きなのは私なのだとわかっていればそれで良いと思っていた。 彼と別れてから10ヶ月。ずっと彼の元カノたちが恨めしかった。 私も、もう彼の元カノになってしまった1人なのだけれども。 よく
彼に初めて出会った八月がまた来てしまった。 近頃の私といえば、エステに通い、去年より10キロ痩せた。 目標だった仕事に就けるようになった。 研修に積極的に参加したり、さらに自分磨きを頑張ったおかげか、周囲から仕事面でも外見面でも褒めてもらえるようになった。 前よりも素敵な自分になったはずなのに、また何も手につかなくなってしまった。 前回投稿した中にもあった彼女の助言通り、没頭することで彼を忘れられている瞬間はいくつかあった。 エントリーシートをひたすら書きまくって
この世には似た顔の人が3人はいるという。でも私の相談にのってくれた彼女は、びっくりするぐらい私と境遇が似ていた。 彼女と出会ったきっかけは好きなバンドが一緒だったことだった。 ずっと名前は知っていたけどなんとなくフォローできてなかった人(Twitterあるあるだと思うけれど)で、友達の紹介でライブの時に直接挨拶をし、繋がることができた。 旦那さんがいるということだったり、仕事が医療系だということも日々のツイートから知ることができた。 私と同じように音楽に対する「救い」
クリスマスも終わり、街の浮かれ具合も落ち着きつつある頃、私は初めて精神科のドアを開けた。 ずっと絶対に行くもんかと思っていたけれどしょうがない。これ以上彼に迷惑かけるくらいなら。 過呼吸で倒れたのはその3日前ごろ。その日はずっとなんか調子が悪くて、家の外に出るのがひどく億劫だった。 でも美容院に行かないといけなかったり、晩御飯を食べようと思ったお店が閉まるのが早かったりして、なかなか自分の思い通りにならない1日だった。 今までも家に帰るまで落ち着かない日は少なくなかっ
彼と別れてから、「私って空っぽだなあ」と時たま思うようになった。 感情の大事な部分が満たされていないと感じていたのは昔からだったのだが、この心の空洞は彼に出会う前の私が抱いていたものとは違う。 それは、今までなかった愛情の受け皿が彼によって私の中に作られたからだと思う。 初めて人に無条件に好きになってもらったことで、今まで完成していなかった器が完成してしまった。 それらしきものは昔からあったはずなのだが、常にヒビが入っていて、親からの何気ない一言で簡単に壊れてしまう、
今回の話はタイトルにもあるように、彼には常に鍵をかけていて欲しい、という話だ。もちろん家だとかチャリンコの話ではない。SNS上でだ。 別れてから私は彼のYouTubeアカウントを定期的にチェックしていた。 新しく曲はアップされていないか、彼の作った曲を他の女が歌っていないか。 単に彼の作った曲が好きというのもあるのだが、それ以上に私に言っていた「俺の作った曲歌って欲しいな」を他の女にも言っていないかをチェックするためでもある。 我ながら書きながらやべえやつだなと思って
映画『愛がなんだ』の後半、テルちゃんの家に来たマモちゃんの喋り方が、彼とそっくりで泣きながら笑ってしまった。 ずるい男の人の喋り方だ。相手が自分のことを好きなのを知っているからこその余裕、それを含んだ喋り方だ。 テルちゃんのマモちゃんへの想いは私の彼への想いと似ている。 どれだけ相手への思いが深くなろうがそれは愛ではない。 結局、自分のことより相手のことが大事に思えていないからだ。 私は「愛してる」と人に言ったことがない。 彼と付き合っていた時も、「好き」という言
ついにその日はやってきた。彼がバイト先にくる日だ。 彼が来ることは店長さんと女将さんにも報告しており、「ハンバーグ作ってあげてね」とひき肉も買ってもらっていた。 ずっとドキドキしながら開店準備をし、ドキドキしながらハンバーグをこねていた。 やっぱり来ないかもと少し思いつつも、どこか彼は来てくれるという自信もあった。 そんなこんなを考えている間に彼が来てしまった。 緊張しすぎて「いらっしゃいませ」すら言えず、店長さんが気を利かせて買い物に行ってしまったせいでめちゃくち
私はメイクが好きだ。メイクをする時間も、お店でコスメを見ている時間も、学校の授業でヘアメイクのことを教わっている時間もたまらなく楽しい。 だけどメイク中、心の奥底ではいつも「ブスだった頃の自分に戻りたくない」という想いがある。 隠さないと、ブスだった私も、自身のない私のことも。 色んな人が私を「可愛い」と褒めてくれることが増えていく度に、気を抜くと「可愛い私」が剥がれ落ちているんじゃないかと不安になる。 その度に家で、街中で鏡を見て、もうぼんやりとしか覚えていないかつ
自分でもよくこんなに引きずってんなあと思う時がないわけではない。 付き合っていた期間だってほんの少しだったし、別れてからもう半年近く経つのに、一向に彼のことを諦める気配も他人を好きになる気配もない。 かといって彼とまた復縁できる確証があるわけでもないし、結婚するだの言っているのも私だけだし。 彼が通っている学校の職員であることから、こんなことを相談できる友人がそもそも少ないし、最近は友達や兄から彼のことを「クズ野郎」と言われるのにも慣れてしまった。 彼にすら「自分より
彼氏のことを「神」だとか「推し」だとか例える人は少なくないと思う。 でも私は元彼のことを「性癖のハッピーセット」だと思っている。 そう言ってしまえるのは彼に対してフィルターがかかっているからこそなのは言わずもがななのだが、だとしても彼のスペックの高さには短期間しか付き合ってなかったものの未だに感服してしまう。 好き!!!(ちょっと黙ろうか) まず、なんと言ってもベーシストなのだ。 ベーシストとはわたしが愛してやまない存在であり、将来絶対ベーシストと結婚すると決めてい
別れても尚、私がそこまで彼に執着に近いほど恋愛感情を抱いているのか。私たちの出会いから1度紐解かないとあまり伝わらないのかもしれない。 私たちが出会ったのは学校で、でも同級生だとか先輩後輩ではなく、彼が職員、私は学生。現在進行形でこの関係は続いている。 学校の志望動機は好きなアーティストの母校であることのみだった。 本当は歌を仕事にしたかったけど諦めてしまった。それでも、将来音楽関係の仕事に就きたいと思い入った学校だった。 入学後のガイダンスで教員の学校用の連絡先が書