野村克也、宮本慎也 「師弟」 (本のご紹介)
野村克也、宮本慎也 「師弟」 (講談社文庫 2020年)
ここ数年、野球からは縁遠くなってしまったのですが、プロ野球では一途なヤクルトスワローズファンです。父親がごりごりのジャイアンツファンだった(あの世代の男性は、だいたいそんなものでしょう。“巨人・大鵬・卵焼き”なんていう言葉もありました)ことへの対抗心と、スワローズの前身が国鉄だった(スワローズというチーム名は、特急「つばめ」号から名付けられたといいます)ことが理由でしょうか。
万年Bクラス(けれども十数年に一度優勝したりするところが愛おしい)のチームにとって、野村克也監督が指揮を執った1980年代は、まさに黄金期です。野村監督はその後も阪神・楽天やシダックス(社会人野球)で指揮を執られ、その強烈な個性と“語録”(奥様の個性的なキャラクターもあいまって)から、多くの人々にとって忘れられない人物となっています。
野村監督の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」「マー君、神の子、不思議な子」なんていうフレーズをご記憶の方も多いでしょう。
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野村監督が卓越しているのは、彼の薫陶を受けた選手たち(多くが既に現役を引退しています)が、その後各地に散って、今日のプロ野球を大いに支えている、という事実からも分かります。野村監督いわく、「才能が抜きんでているわけではないが、的を得た不断の努力でその地位を確立した」宮本慎也選手(スワローズファンからすれば、宮本さんも“神の子”に近い)もその一人。彼と野村監督が、8つのテーマについて論じあったのが、本書です。
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野村監督は著書も多く、その“語録”はすでに多くの方々の耳にも届いていると思うのですが、本書では、野村“語録”を宮本選手がどのように咀嚼し実践につなげたのかが真骨頂でしょう。「強者にとって、大型補強を行うことは最大の危機管理である」「主将(キャプテン)という制度は要らないのではないか」など、宮本選手の言葉も、いちいち頷けます。
それにしても、真理は細部に宿る(プロ野球での様々なシーンが回顧されるのですが、お二人の発言を裏付ける“事実”が、それはそれは繊細なこと)ということ、そして、知恵というものは受け継がれることが大事なのだということを、改めて思い知らされます。
私も宮本選手と(ほぼ)同年齢。自分にできることに励まなければ。背中を押してくれる一冊となりました。
注・野村克也監督はすでに鬼籍に入られ、宮本慎也選手もとうに現役引退していらっしゃるのですが、ここでは「監督」「選手」とさせていただきました。それが一番しっくりくるので…。
(おわり)