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“ケアリーバー”について思うこと

“ケアリーバー”について思うこと
サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ・その32

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 味もそっけもないタイトルなのですが、NHK・Eテレ「ハートネットTV」が、このテーマを取り上げたので、思うところを記しています。

 そもそも“ケアリーバー”という言葉を聞き慣れていない方も多いと思います。社会的養護(里親による養育や、児童養護施設での生活)から巣立った若者を指す言葉です(ケアをleaveした人、ということ)。児童福祉法における児童とは「18歳(になったあとの年度末)まで」なのであって、18歳を迎えると、社会的養護から巣立ち、その途端に孤立無援状態に陥りかねない、という事情を明示化したのですね。少し前までは「18歳の壁」といっていたものです。

 社会的養護は、普段私たちの人目につかない(当事者もわざわざ“私は社会的養護の出身です”などということは少ないですし)ので、そこでの課題が名付けられることによって、私たちの目に止まり、それをきっかけに支援の輪が回り始める、という意味で、「ケアリーバー」が注目されることは、意義のあることといえますね(同じことが「ヤングケアラー」にもいえます。こちらは少し先を進んでいる印象です)。

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 ところで、私たちが成人し、原家族から離れていく時、その移行は徐々になされます。何かあった時には実家に帰り、時には具体的な支援を得るうちに、少しずつ離れていく。ところが、社会的養護の場合には、18歳でケアがスパッと切れてしまう(児童養護施設でのアフターケアの推進や、自立援助ホーム・各種アフターケア施設の設置などの手当てがなされつつあるのですが、まだまだ不十分)。ですから、乱暴を承知でいえば、“ケアリーバー”の問題とは、移行期危機の問題なのです。

 人生のあるステージから別のステージに移行することは、そのこと自体が危機的(「危機」イコール「破綻」ではなく、リスクが高まっている時期だ、という点に注意)なのです。

 日本の学制では、「小1プロブレム」「中1ギャップ」「高1クライシス」などという現象が指摘されます。大学1年生の危機は、いわゆる「五月病」ですかね。また、私は思うところあって定年を待たずに職場を退職したのですが、直後に社会保険料や住民税の請求が一気にやってきたのも、危機的だと思いましたね(知識がなかったり準備できなかったりすると、きっと詰む)。定年で退職したら“濡れ落ち葉”になってしまう、これも移行期危機(職業生活一辺倒から、家庭生活への)です。

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 私たちの人生では、いくつもの移行期があって、その都度危機を迎えます。ですから、移行期危機とそのケアは、実は“私ごと”なのです。ところが、社会的養護というニッチな領域における移行にばかり焦点化すると、世間(私たち)の受け止めは、しょせん“他人事”で終わってしまいます。そして、何かあれば、世間(私たち)は、きっと手のひらを返してしまいます(どこかの児童養護施設で大掛かりな不正が発覚するなど)。

 細分化されたケアニーズを一つひとつ潰してゆく(もちろんそれも大切なことは承知の上)だけではなく、共通の大きなケアニーズをつかみ、小異を排して大きな合意形成を図っていくこと、協力していくことが、問題を私ごととして捉え続けていくためには大切なのではないか、と思いますね。

 ちなみに、ヤングケアラーについても、同じように思います。ヤングケアラーの問題は、「ケアラー役割を取ることを強いられる境遇によって、子どもとしての本分が妨げられる」ことに本質があるのですが、子どもの本分を妨げる境遇は、今日いろいろなところに転がっているはずです(極端なものは、いじめとか虐待とか)。ケアラーでない子どもの生き辛さにも目が向けられるとよいと思います。

 以下、軽く暴言?を吐きます(真意を汲み、多めに見ていただければ幸いです)が、些細なニーズの違いで細分化された小さな集団が、互いに罵り合い足を引っ張り合う(私たちの逆境は、誰某のせいだ、など)のでは、この社会に先はないと思います。大きなニーズや理念の下で、まとまって対応する、そのための方法論を見出し実践する必要があるでしょう。生活保護バッシングなど、している場合ではないですよ。確かに今日の社会情勢は、ある種危機的です。生活保護を含め、私たちの暮らしを下支えする社会保障システムの全体像を、知恵を出し合って再検討しなければなりません。

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 ちょっと話が大きくなり過ぎましたね。最後までおつき合い下さり、ありがとうございました。

※件のテレビ番組、実は私は見ていません。W杯ですっかり生活リズムを崩し、この時は既に寝に入る態勢にあったので(笑)。

(おわり)

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