【旬杯ストーリー・結】終わらない夏
⭐️承
⭐️転
⭐️結
交番からの帰り道。
コンちゃん、茜、僕。
そして、コンちゃんのおばあちゃん。
ぼくらは横一列に並んで、ゆっくり歩いていた。
遠くから花火の音が聞こえる。
「あら、花火かしら。夏だねぇ」
おばあちゃんがのんびりそう呟いた。
そうか、聞くだけの花火もアリだな。
夜風が運ぶ煙と夏草の匂いが鼻をくすぐる。
じっとりと汗ばんだ背中にシャツが張り付いていた。
「コンちゃん」
「うん」
「言ってくれればよかったのに」
「うん」
おばあちゃんが痴呆で徘徊してしまうこと。すぐ物を盗られたと勘違いすること。コンちゃんがいれば優しいおばあちゃんでいられること。だからしばらく学校をお休みしてたこと。
コンちゃんは、うん、うんとしか言わなかった。
ぼくも茜もわかっていた。言えなかったのだ。同じ立場なら、ぼくだってきっと言えないに違いない。
「コンちゃん」
「うん」
「明日から夏休みだよ」
「うん」
「コンちゃんちに遊びに行くよ。それで、おばあちゃんが外出ちゃったら一緒に探す。1人より3人の方が絶対いい。ね、茜?」
「うん。コンちゃんも、コンちゃんのおばあちゃんも大好きだから。あたし達ならすぐ見つけられちゃうよ」
「うん、ありがとう」
コンちゃんはそれ以上何も言わなかった。
ただすすり泣くような声が聞こえたのを、花火の音がかき消していった。
しばらくして、コンちゃんのおばあちゃんは施設に入ることになった。
「今日の17時、いつものとこに集合ね」
今日は8月最後の夏祭り。
茜の言葉にコンちゃんがほんのり頬を染めたのがぼくにはわかった。
二人を待つ間、滑り台に登っていたぼくを夕焼けが赤く染めていく。耳に痛いほどの蝉時雨、ほんのり涼しい風。
もうすぐ夏は終わるのだ。
秋になり、冬になり、いつか道を違えても、3人で過ごした夏は永遠にここに残っている。
僕は駆けてくる足音に、急いで滑り台を駆け下りた。
《終》
•承ストーリー
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