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【白熊短歌】審査員 rira賞

今回は短歌をメインに担当させて頂き、
審査員としていくつか選ばせて頂くことになりました。

どの短歌も作者の気持ちが込められている大切な作品であり、優劣など決めることはできません。それぞれに素晴らしい持ち味があり、そこに込められた想いを比べることなんて不可能です。

だけど、「この短歌、なんか好き❗️」と言うことはできます。私が好きなタイプは、上から下にいくほどに着地点が変わっていくもの、比喩が個性的かつ的を得ているもの。そのほかもちろんフィーリングもあり。

今回の短歌は俳句と同じく、
順位付けすることとなりました。

完全なる私の好みの選歌ではありますが、
発表させて頂きます。



1.どうにでもならないこととなることと
   私が雪で君が星とか(林白果さん)

私たちは世の中にどうにもならないことがあることを知っている。だけどこの歌はそれを嘆くわけではなく、悲しむわけでもない。

私たちの力ではどうにもならない自然に例え、あるがままに受け入れている潔さ。私は雪で君が星なら、それはもう仕方のないことだよね、と。そして決して届かない相手を想い見つめ合ってるような切なさ。それは相手のためでもあり、また自分のためでもある。

シンプルな表現の中で、静かにまっすぐ見つめている視点が純粋で美しく、混じり気のない雪と星の描写をより際立たせてくれます。恋をすれば相手が欲しくなるし、嫉妬もするし、別れれば想いが後を引く。でも人を好きになるってそもそもこんな純粋な気持ちなんじゃないのかなぁと、すっと胸の中に入ってきて荒ぶった心を平らにしてくれるかのようでした。



2. この距離に試されているかもしれぬ
     2人同時に仰ぐオリオン(suzucoさん)

冬は最も星が輝く季節。遠く離れた二人が違う場所で、同じ空、同じオリオンを眺めている。試されている、ということはきっと互いの想いにいくつかの不安を持ち合わせているのだろう。あの人は離れていても私のことを想ってくれているだろうか。離れるほどに心も離れていくような気がして。

しかし、凛とした星々がそれを打ち消すように瞬いている。空には決して姿を変えることのないオリオンが、今こうして見上げる二人を繋いでくれているから、きっと大丈夫。信じることって勇気がいるけど、信じることができたら強くなれるはず。そんな2人の互いを思う気持ちが星のように輝いて見えるようでした。



3.主語のないだれかのことを思う夜
 初霜に斜線のような傷ひとつ(ゼロの紙さん)

他の追随を許さない、洗練された表現力の高さがダントツ。言葉や音楽は私たちの心さえ変えてしまうことがある。恋してるわけでもないのに恋してる気分になったり、失恋の曲を聴いたら切ない気持ちになったり。突き動かされていく衝動は果たして本当に私自身の気持ちなのだろうか。

まっすぐな線をいくつも描いた初霜は純粋な心。でも心っていつもまっすぐでなんかいられない。斜線をつけるように傷がついてしまうのは、生きている証でもあり。その繊細で触ったら壊れてしまいそうな初霜を、さくさくと踏んでしまう気持ちよさはここになくて。私たちはこうやって意図せず心にたくさんの傷を付けながら生きてるのかな、と思わずにいられない作品でした。



4.風 祈ることしかできぬ人間の日の出をじっとじっと待つ群れ(放課後の海で猫。さん) 

若い感性の光る一首。風、と区切ってあること、人間が群れと表現してることで視点は風として捉えました。自然に対して人間は無力なもの。雨を降らせたり風を起こすこともできないし、天災だって避けることができない。ただ祈ることしかできないという無力な生き物。

以前葛西の海まで初日の出を見に行った時、そこには日の出を待つ人の黒い群れがありました。雑多な集団がすべて同じ方向に歩き、太陽が顔を出すのをひたすら待っているうごめく群れ。それは何かの儀式のように、神聖にも感じて。

光が差し込む瞬間、私たちは確かに祈ったはず。そしてそこには必ず風がそばにいる。それは、人生において暗闇に光が差し込むのを待ち望むときとよく似ているようにも思えました。



5.鈴の鳴るきらめく街に雪花舞う
 ひとりで歩くもう決めたこと(リコットさん)

きりっと前を向いた視点がカッコいい。クリスマスムードに染まる街は賑やかで楽しそうだけど、一人で歩くにはどこか寂しい気持ちになりがち。本当なら隣に誰かがいて、この楽しさを分かち合いたい。雪が舞うほどの寒さなら尚更温もりが恋しくて。

だけどこの歌は、一人でも構わない、むしろ一人なら一人で堂々と前を向いて歩いていこうという強さ。もしかしたら心のどこかに寂しさがあるのかもしれないけれど、そんな気持ちなんて吹っ切ってしまうような潔さ。寄り添ってくれるのは、触れれば消えてしまうような雪花だけでいい。強さと儚さを同時に抱えながら、ありのままの自分をすっぽり受け入れていく。ヒールの音を立てながら颯爽と都会を歩くカッコいい大人の女性、そんなイメージの短歌に惹かれました。




6.鈍重なミシンの音が年を継ぐ
 まっさらな生地が欲しい除夜だ(沼田ヤギヌさん)

ミシンと除夜。一見何の関連性もないような言葉が巧みな比喩表現で結び付けられている一首。

まっさらな生地は新年、去年の布に今年の布をミシンで縫い付け年を継ぐという発想の柔軟さに驚かされます。去年の生地はきっともうたくさん汚れが付いていたり、どこかほどけていたりすることでしょう。そこに気持ち新たに、まっさらな生地を縫うように新年を迎えるという感覚。新年は新しい気持ちで気持ちよく迎えたいですよね。

しかし「鈍重」、布を縫い付ける作業は丁寧かつ慎重に行わなければならないような密やかさも感じます。ひと針ひと針丁寧に。それはまるで除夜の鐘のように。つまり除夜の鐘の鐘こそが、今年と来年を継ぎ合わせるミシンである、とも想像できます。思いがけないものたちを組み合わせた比喩ほど感嘆が深い短歌でした。



🌟 🐻‍❄️   🌟 🐻‍❄️ 🌟 🐻‍❄️   🌟

ここより下は審査員賞ではないのですが、候補として選ばせて頂いていた6首もせっかくなので発表させて頂きます。

🌟笑いあうきみと二人で熱燗をしんと冷えたる月夜の底で(雨音さん)

「笑いあう」「熱燗」で前半はあったかく、後半は「冷えたる」「月夜の底」が寒々しいイメージなのに、終わりまで滑らかにすっと進んでいく描写が美しくて惹かれました。

冬の月夜は張り詰めたような冷たさと透明感、その底だというのならきっとそこはひどく寒くて暗くて。でも二人でいれば、そんな場所もずっと留まっていたいような二人の世界が広がる。手には熱燗、湯気が立ちのぼって二人の想いは今にも月まで届きそう。

そんな世界の端っこのような場所でさえ二人でいればロマンチックに感じられる月夜、笑い合えば心も体もあったかいに違いない。そんな恋をしてみたくなるような素敵な短歌でした。




🌟かじかんだ涙腺ふたつ空っぽの浴槽に膝をかかえている(すうぷさん)

そこは寒くて、世界にたった一人ぼっちで、今にも泣き出しそうな哀しみに溢れている。小さな小さな子供のようなすうぷさんが膝を抱えているのに、誰も助けに来てくれない。だけどその悲鳴は声にもならなくて。やっとのことで振り絞った声は、浴室に反響するだけで誰にも届かない。その叫び声が言葉の隙間から今にもおぼれ落ちてきそうでした。

うちの子は現在形で不登校中です。まだ私が不登校自体を受け入れられず躍起になっている時期がありました。誰にもわかってもらえなくて、世の中はちゃんと回っているのに自分だけが取り残されているような、そんな感覚に似ているような気がします。

涙を我慢していっぱいいっぱいだった辛い時のすうぷさんを、大丈夫だよ、きっと声は届くよ、と抱きしめたくなりました。



🌟春の陽に鉢底の影に目をこらすメダカの寿命が尽きた頃かと(江浪キリさん)

春といえば木の芽が芽生え花が開き出し、生き物たちの活動が活発になり始める季節。そんな柔らかい春の日差しを浴びて目覚めるものたちがたくさんいる片隅で、寿命を迎えるものもいる。生と死はいつだって隣合わせだ。

冬が終わり、春の日差しを浴びて温かい陽気を感じると、なんだかワクワクして急に外に出たくなったりする。そんな生を謳歌し出す春の片隅で、ひっそりと命を失っていくメダカ。寒さに強いメダカは冬眠もするらしい。少しずつ動かなくなり、餌も食べなくなっていくメダカに死の気配を感じて。死は常にすぐそこにいるものだ。春の日差しの中で生き絶えていく様子を優しく見守りながら、死について思い耽る姿を感じました。



🌟泡だてたラテで味わう温もりは今日を乗り切る最初の褒美(だいなさん)

一杯のコーヒーや、一本のタバコ。仕事や家事を始める前に、ちょっと背中を押してくれるやる気スイッチのアイテムって皆あるはず。私だったら、朝洗濯を回す前にカフェオレを淹れる。夏でもホットで。働いてる時は決まったコンビニでドリンクを買い、気合を入れたい時は向かいにあるドトールに入る。

それはほんの小さなことでいいんだけど、何かを始める前の儀式としてとても大事なもの。ふわっふわに泡だったラテを一口飲んだ時の幸福感、人は美味しいものを口にしてる時は思考がなくなる。この束の間の切り替えスイッチのおかげで、これからのスケジュールを頭の中ですらすらと立てられるようになったりする。

急いでるときほど一瞬の切り替えって大切だと思う。それを見逃さずに切り取って短歌にしてくれたことで、そんな大事なことを思い出させてくれました。



🌟スノードームみたいに降っている夜の静かの向こうで聞こえる寝息(葵花さん)

音一つなく雪が舞う明るい夜は、どこか神聖な空気が漂う特別な空間にも感じます。それはまるでスノードームのよう。永遠と降るかのような雪に見惚れていると、時間さえ忘れてしまいそうで、別世界に紛れ込んだかのようにも感じます。

普段なら聞こえる車の音や足音も、雪に吸い込まれて静かになる。思わず息をひそめてしまいそうな静かさの中で、唯一聴こえるのが寝息のみ。寝息はスノードームの向こう側、つまり今感じている静謐な空間の外側である現実の世界から聴こえてくる。美しい言葉たちが空想の世界と現実、二つの世界を行き来して繋いでくれているような感覚に惹かれました。




🌟もう二度と甘い言葉は信じない大根煮込む時間の話(はねの あきさん)

甘いのは当然大根だけの話ではないはず。だから最初に「もう二度と甘い言葉は信じない」が来て、ふと付け足したかのように大根がやってくるという構成のうまさが光ります。

甘い言葉って、いくら警戒したって素直な人ほど信じてしまう。何度も何度も甘い言葉に乗っては落とされてを繰り返し、「もういや!甘い言葉なんて絶対信じない!」とブツブツ言いながら、キッチンに立って大根を煮込んでいる。ぐつぐつ煮えていく大根を見つめながら、つい自分の心の中も見つけてしまうような時間。そんな可愛らしい女性を想像してニヤリとしてしまいます。

ブツブツ文句を言ってるうちに大根は甘辛く煮えたでしょうか。大根の甘さごと涙を飲み込んでしまえば、きっと次は甘い言葉もうまく交わせるかもしれません。そんなストーリーを思わず想像してしまうほどに奥が深い作品でした。



🔻これからのスケジュール

19時半〜短歌三賞
20時〜 俳句審査員賞
20時半〜俳句三賞
21時〜フィナーレ&エンディング動画

※エンディング動画では新曲公開、そしてエンドロールが流れます。どうぞ最後までお楽しみください



🔻他の短歌審査員による発表


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