海月の見る夢【俳句からストーリー】
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「…だからね、クラゲって脳や心臓がないから、ホントにただ何も考えず漂ってるだけなんだ。神経はあるから、刺激に反射するだけなんだよ。中には毒のあるものや不老不死と言われる種類もいて、その仕組みが明らかになればいつか僕たちも不老不死に…」
「あー、もう、うるさい、うるさい!」
黙ってクラゲに見惚れていたら、延々と話が止まらない。うんざりしたナナは、早足でクラゲのエリアを後にして出口へ向かった。
「あれ、なんで?クラゲを見に来たんじゃないの?」
アキトがキョトンとした顔で追いかけてくるので、
「クラゲは見たかったけど、あんたのウンチクを聞きにきたわけじゃないっ」
ナナは、アキトをキッと睨みつけて言い放った。
アキトと来たらこうなるってわかってたのに。
クラゲに釣られて誘いに乗ってしまった私が悪いのか。せっかくの休日、癒されようとやってきた水族館なのに。
「いい?クラゲに細かい説明なんていらないの。私はただふわふわと、クラゲになりたかっただけなの」
大きな体をあきらかにしゅんとさせて落ち込んでいるアキトの姿に、やや罪悪感を覚える。背中に視線を感じながらも、足を止めることはしなかった。
ナナは帰宅してすぐに冷蔵庫を開ける。
が、そこには何も入っていない。
そうだ、今日は買い物しなきゃいけなかったんだ..
いいや、もう寝よ。
ナナは着替えて化粧を落とすと、そのままベッドに倒れ込んだ。
暗い…
ここは…どこ…
冷たくて、気持ちいい…
もうずっと…ここにいたい…
なぁんにも考えなくていいし…
なぁんにも、しなくたっていいの..
我儘で自分勝手な私を
そのまま愛してくれる人なんて
この世界にはいないし
こんな私を
どうか誰も愛さないで
すべてを手放して
なにもいらないの
ずっとこうして居たいから…
ー本当に?
誰かの声がした。
それはあのクラゲからのようだった。
そうだ、私はずっとクラゲになりたかった。
いつのまに私の体はクラゲのように昏い海の底に沈んでいく。果たしてそれはクラゲなのか、私なのか。いや私はもうクラゲなのだから、もうどっちでもいいことよね。
「うん」
ちゃぽん、と音がした。
揺れながら水の音色に包まれて、
クラゲたちに腕を掴まれながら、
どんどん、どんどん、沈んでいく。
もう帰らないと。
ーどこへ?
そうか、帰る場所なんて、私にはもうなかった。
あの世界に、私はもういらないのだから。
ゆらゆらと揺れているクラゲの手が、
まるで笑っているかのよう。
その時遠くから、
切り裂くような鶏の声が聞こえた気がした。
……
目を開けるとそこは私の部屋で、
ピンポーン❗️とチャイムが鳴っていた。
時刻は朝の5時。
おそるおそるインターフォンを覗いてみると、
アキトがそこに立っていた。
「ナナ..」
捨てられた子犬、いや大きな犬のようなその姿に無言でドアを解除して部屋に入れる。
「何時だと思ってんのよ」
といいながらも、起こされたことに安堵した。
ふと腕を見ると、
何か細いものが巻き付いていた跡が付いている。
ほんのり湿っているような…
ナナは身震いしながら、急いで水道の蛇口を捻る。水を溢れるほどコップに入れると一気に飲み干した。
「ナナ、ごめん。嫌われたかと思って、どうしても会いたくなって始発で来ちゃった」
「仕方ないわね、私いまお腹ぺこぺこなの。何か食べにいきましょ」
アキトが来てほっとしている自分がいた。
今は一刻も早くこの部屋から出たい。
「いいけど、部屋着のままでいいの?いつもどんな時もきちんとオシャレして外に出るのに」
「いいのよ、もう。どんなカッコでも私は私よ」
どれだけ取り繕っても、これが私である以上何者でもない。いや、私自身が認めていなければ、まだ何者でさえもないのだ。アキトの目に映る私は、どんな女なのだろうか。
「ねえ、昨日のクラゲの話、もっと聞かせてよ。クラゲの不老不死の話とか」
「クラゲの話?いいよ。実はクラゲは神経を繋ぎ合わせて、テレパシーのように通信したり侵入したりできるんじゃないか、って説があるんだ。脳はないけど、本能的に種を生かそうとしてあらゆる生物に働きかけようとすることができる可能性が示唆されている。
もっとも、人間にそんなことがあったという話は聞いたことがないけど..いつのまにかクラゲと入れ替わってたりしたら面白いよね。って、なんだかそこまでいくとちょっとしたSFみたいだよね?」
ホラーにするつもりなかったんだけど
書いてるうちになんか…(。・ω・)アレ?
どちらも決勝句ではないけど
出しそびれてしまった。。
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9月7日20時まで❣️
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