向日葵が咲く庭【ショートショート】
カーテンの向こうが白じんで、蝉が朝を告げ始めた。
エアコンのタイマーが切れて、むわっとした空気がじんわり体にまとわりついてくる。休日といっても夏は暑すぎて、ゆっくり寝てもいられない。
手探りすると、触るものがあった。エアコンのリモコン。ピッ。冷房。スマホも手探りして、あれ、ない。ない。あ、あった。ベッドの下。
着信の通知が、1件。
起き上がって顔を洗い、熱いコーヒーを流し込む。着替えをして、椅子に座ってインスタとTwitterのチェック。ようやく目が覚めて、おもむろに電話をかけ直した。
祖母が、亡くなった。いくらか覚悟をしていた私は、淡々と支度をして新幹線に乗る。2時間後、数年ぶりに故郷に降り立った。
横たわる祖母はまるでただ眠っているだけのように見えた。しかし神妙な顔で側に座る母の顔で、身が引き締まる。
身内で葬儀を済ませ、火葬場に柩を入れる。これから祖母はあの眠ったように綺麗な顔のままで、焼かれて灰になるのだ。姉の嗚咽を聞いてやっと、私の目にも涙があふれた。
祖母の家に行き、母と姉とで遺品の整理をする。持ち主のいない家は、静まり返る静寂が耳に痛く響いた。母は隣で、あれはいらない、これはどうしよう、これはいらないわね、と一人でずっとしゃべっている。
埃くさいからと窓を開けると、夏の匂いが一気に押し寄せてくる。もわっとした熱気、止まない蝉時雨、むせ返る葉っぱの匂い。小さい頃、時折連れてこられてはすぐそこの山で遊んだものだ。ここは思い出が溢れすぎている。
庭には、祖母が大好きだった向日葵が顔を並べていた。
もともと祖父が植えたものだが、祖父が亡くなってからは祖母が毎年植えていた。いつもお盆の時期まで綺麗に咲いていて、おじいちゃんが帰ってきて笑ってるみたいだ、と祖母が言っていた。
私は皆が帰った後、こっそり向日葵を全部抜いて実家に植え替えた。こっそり、といっても大きな向日葵を運ぶのは重労働。泥だらけの私に、不審顔の母。
母は、庭の向日葵を見て驚いた。夕陽を浴びて色づく向日葵たち。日暮らしの鳴き声が山から降りて響き渡る。涼しい風が夏の終わりを教えてくれていた。
こちらを向いた向日葵たちが風に揺れて、何かを囁いてるようだった。そうして、母はようやく声を出して泣くことができた。
⬇️夏のショートショート、2つめ〜( ´꒳`*)
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⬇️「恋愛×読書コンテスト」にて優秀賞に選んで頂きました!ありがとうございます✩°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
⬇️こちらの記事です(/ω\*)
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