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これはきっと恋なんかじゃない。【冬ピリカ応募】

私は恋を知らない。

人を好きになったことはあるし、
今も恋人が同じ部屋ににいる。

だけど彼の熱量と私のそれは、決してイコールではない。彼のことはちゃんと大事だし、そばにいるのはとても心地よい。だけどこれが恋というのなら。

恋って、こんなものか…


画面から顔を上げて、買ったばかりの椅子にもたれる。リクライニングがなかなか心地良い。



私は今まで何でも上手くこなしてきたつもりだ。

学校の勉強も、試験も、友人付き合いも、パズルをはめるようにそれこそ楽しくやってきた。だけど、いつも何かが足りない。足りないと気づくといても立ってもいられず、何かを探しまくった。

私にしかわからない傷を、風がそっとなでていく。



私はこの気持ちをそのまま文字にして、SNSに投稿してみた。意外にもそこに仲間がたくさんいた。何かが足りなくてここにくる。みんな、同じか。

その中でも特に意見の合う人がいた。彼は何をするにも私と同じベクトルを持っていた。これがもしや運命というものか。何を話しても、何を書いても楽しかった。時間を忘れて、いつのまにか窓の外が明るくなる日もあった。


君は、どんな声をしてるの?
どんな顔で笑うの?
君の香りはどんなだろう。

おどけた文字の、
その向こう側を見たい。

私は首を横に振り、キーを打つ手を止めた。

伸びをすると、気の利いた恋人がコーヒーを持ってきてくれる。私の好きな、ちょっぴりほろ苦いカフェモカ。なんて幸せな時間。


もしも、会ったらどうなるだろうか。
私たちは引力のように惹かれあい、止まらなくなってしまうのか。

わからない。



ワカラ、ナイ。



私はカップを置いてため息をつくと、再び仕事に取りかかる。在宅ワークというものは誘惑が多すぎるのだ。



わたしと彼のリアルは重ならない。

なんならどちらにも別に恋人がいる。そうだ、これは恋じゃない。恋にしてはいけない。恋とは。コイ、とは。いったい何だというんだ。




しまいには、文字を打つことができなくなってしまった。



あれだけ呼吸をするように飛び出してきた文字たちは、もうここにはいない。恋人は同じ部屋にいる住人と化し、私は部屋を出た。少し遠くに引っ越すつもりだ。



君を忘れたくない。忘れたくなんかないから。
心の中に小さな、でも確かな灯りを照らしておくよ。

君の場所は、いつでもそこにある。
だから泣かないで。
画面の向こうの文字に、そう答えた。

頬を温もりが滑るように落ちていく。
泣いてなんか、ない。



私は我を忘れてキーを打ちまくった。何ページにも及ぶそのテキストは、誰にも見せることなくそっとフォルダの奥に仕舞い込んだ。


一つ、私の心の中に灯った光。
これがあれば明日からも、きっと生きていけるから。



ーありがとう。

私はカチッと音を立てると、ノートパソコンを静かに閉じた。

窓の外に雪がちらついている。私は自分でカフェモカを注ぐと、水滴の垂れる窓の隙間から雪花が舞い散るのをただじっと眺めていた。





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