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風の色【シロクマ文芸部】

風の色が見える、と少年は言った。

人々は少年を嘘つきだと罵った。
ある人が纏う風は浅緋色であり、またある人は鼈甲べっこう色であり、向こうの人は青丹色で、あっちの人は黒檀こくたん色だといった。人々は子供の戯言と相手にしなかった。

黒檀こくたん色と言われた人が次々亡くなって、少年は死神だと恐れられ村を追い出された。みなしごだった少年は本当の親を探すことにした。

森の中を歩いていくと1匹の狼に会った。銀色に光る大きな狼が牙を剥けた時少年は、食べられる、と直感した。

その時、白群びゃくぐん色の風が吹いて、狼は牙を剥くのをやめた。少年が毛並みを撫でると狼は頭を下げて彼に擦り寄った。そして狼は少年を背中に乗せ、風のように森を駆け抜けた。


開けた荒野に出ると、一羽の大きな烏がこちらへやってきた。頭上を旋回して一声鳴くと、烏の大群が濡羽ぬれば色の風に乗ってやってきた。

烏たちの鳴き声に囲まれ、今度こそ襲われると思った瞬間、また白群びゃくぐん色の風が吹いた。烏たちはぴたりと鳴くをやめてどこかへ飛んで行った。一匹だけ、ひときわ大きな烏だけが残った。烏は行く先を示すように常に前を飛んでいき、狼はその後を追った。


しばらくすると、とても登れそうにない巨大な山が目の前に現れた。するとまた白群びゃくぐん色の風が吹いて、少年と狼の体にまとわりついた。一人と一匹は飛ぶように空を駆け抜けた。



頂上に着くと、白群びゃくぐん色の風を纏った一頭の鹿がいた。こちらに気づくと鹿は瞬きをする間に人間となった。彼はにこりと笑って少年に手招きした。

彼の手が少年に触れた瞬間、少年の体が光りそのボロボロで汚れた服は春色の美しいそれへと変化した。


「あなたは、お父さん?」


白群びゃくぐん色の男性は頷いた。

「春色の風を纏い、これからはゼピュロスと名乗るが良い」

「風の色が見えるの?」

彼はこくっと頷いて微笑んだ。


少年は狼と烏を連れて風に乗り、各地に春の訪れをもたらした。春色の風がどんな色か、それは神のみぞ知る。




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