SNSの罠【火サスどうでしょう企画】
「ゆう子さんって、Twitterってやってます?」
休憩室で少し遅めの昼食を取っていると、5つ年下の真紀が聞いてきた。
「やってるわよ、新商品紹介でしょ」
「仕事のじゃなくて、プライベートですよぅ」
というと、真紀はゆう子の向かい側にどかっと腰をかけ、自分のスマホの画面を見せた。
「最近始めたんですけど、フォロワー全然いなくて。よかったらゆう子さん、フォローしてもいいですか?」
真紀は2週間前、このホームセンターにパートとして入ってきた。離婚して中学生の息子を1人で育てている。うちにも高校生の娘がいるので、何かと話が合った。
「いいけど、それより真紀ちゃん。仕事終わりとかに商品の配置、大体でいいから覚えといたほうがいいわよ?」
「はーい、了解でーす」
このやりとり、たしか何日か前にもした気がする。あまり小うるさいことはいいたくないが、客に尋ねられた真紀に毎回呼び出されるのは私なのだ。
「あっ、ゆう子さん、ご案内お願いしまーす」
さっそく呼び止められた。客はよく見かける常連さん。常連とはいえ、この広い店内の商品はなかなか覚え切れるものではない。
「なんか、いつもすみません」
「いえいえー」
「えと、Twitterにあった新製品なんですが」
「あ、Twitterみて頂いたんですね。ありがとうございます」
ゆう子はテキパキと新製品売り場へ誘導した。新製品といっても前面に押し出してるわけではない。棚にPOPを付けてあるだけだ。
「あの、あと」
常連の客はコホン、と咳払いをした。白髪がほんの少し見えるがまだ歳を感じさせない。40代半ばくらいだろうか。
「note、もやってらっしゃいますか?」
「え?」
こんなところで急にnoteの言葉が出てくるなんて。noteをやってることは家族にも秘密のはずだ。いくら常連さんとはいえー。怪訝な顔で思わずじっと顔を見ていると、
「すみません、Twitterに書いてあったので。まだ読んではいないんですが。あとインスタもやられてるんですね」
「あっ、そうなんですよー。そんなに更新してないんですけどね。では」
といいながら笑顔に戻り、会釈して立ち去った。まだまだ仕事はある。そういえば、Twitterにnoteやインスタのリンクを貼っていたんだったっけ。
「ゆう子さん、あのお客さん、ちょっといいですよね」
「いい、って?」
「顔も歳のわりにそこそこカッコいいし、あの申し訳なさそうな顔もなんか可愛いんですよねー」
ふーん、真紀ちゃんってこういう人がタイプなんだ。私もバツイチとはいえ、もう結婚も恋愛も当分いらないかなぁ。
あれ?
ふと、気づいた。
新製品のTwitterは仕事用で、私自身のTwitterとは紐づけていない。まして個人のnoteやインスタなんて載せていない。
背中がさわっとした。後ろを振り向けない。
彼はまだ私を見ているかもしれない。急いでその場から消えたくて倉庫に向かった。
「お疲れさまでしたぁ」
「あ、ゆう子さん、この後よかったら飲みに行かないすか?」
少し年下の主任とのこのやり取りも、何度目だろう。好意を持ってくれているようだが、年下は範疇外。まして職場なんてめんどくさくて仕方ない。
「すいません、娘が待ってるので。お先に失礼しまーす」
月に照らされた、薄暗い夜道。
街灯がぽつぽつと道を照らしているが、足元は暗くてあまり見えない。まだ9時だが、人通りが少ない住宅街。ゆう子は足早に家へ向かう。そうだ、Twitter調べてみなきゃ。
カバンからスマホを取り出し、Twitterを開く。個人のほうは、うん、大丈夫そう。仕事のほうはー。
あれ?
なんで仕事用のほうに私のTwitter、note、インスタ、メールアドレスまで載ってるの??
ゆう子はどちらかというと用心深いほうだ。仕事も早く覚えてコツコツこなし、効率を考えるタイプ。SNSの使い分けもしっかりできている、と思っていたのだが。いつの間に?
通知を見てみると、たくさんのフォローといいねが入っていた。メッセージも異様な数。新着メールはというと、100を超えている。
ピロン、ピロン。
ラインのメッセージが入った。
こんばんは。ぼくは40歳のフリーターです。
ツイッターを見て、ラインしました。
いま、どこですか?
いま、あなたの家の近くの公園にいます。
誰かにいってもだめです。
すぐに、家にいきます。
ゆう子は思わずその場に立ち止まり、薄暗い路地の中で異様に光る画面を凝視した。手に汗がじんわり滲み、スマホが滑り落ちていく。
コトン。
誰もいない夜道に、音だけ響いた。
ゆう子がしゃがんでスマホを拾い上げると、
コツン、コツン。
後ろから、足音が聞こえた。
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火サスってあまり見たことなくて|• •๑)"
みんなの読んでたら、書きたくなっちゃった。
火サスになってるかなぁ..