まどろみの中(広島市南区)
電車の中にサッと光が射し込み、すべてがオレンジに染まるあの一瞬が好きだ。
広島県はその名の通り島が多い。
世界遺産の厳島神社を有する宮島をはじめ、瀬戸内海に大小様々な孤島が浮かぶ。
そのうちの一つ、「江田島」に向かおうと思った。
宮島の向かいに位置する大きな島だ。地図で見た時の存在感が気になり、深い意味もなくそこに行くことに決めた。どのみちノープランの旅だ。
広島市内から路面電車に乗り、船が出る広島港を目指す。
乗った時はサラリーマンや地元の学生で混み合っていた車内も、中心街から遠ざかるほどに静かになっていった。広島港まであと数駅。気が付くと乗客は自分だけだ。
心地よい路面電車の振動だけが響く。がらんどうの車内は淡い光をたたえていた。光に照らされたほこりがスローモーションで宙を舞う。まどろみの中に私はいた。
目的地を告げるアナウンスで現実に引き戻された。運転手さんに軽く会釈をし、電車を降りると磯の香りがした。海が近い。それだけで心が踊る。
島に着いたら生牡蠣をたらふく食べよう、雑な予定を考えながら私は歩き出した。
あてのない旅はどこまでも自由だった。
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