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私が日本酒を好きな理由

前回は自己紹介を兼ねて日本酒を好きになったきっかけについて書いてみました.
自己紹介:日本酒沼への招待 ~私が日本酒を好きになったきっかけ~(note.com)
今回はまさに今,日本酒が好きと思える理由を書いてみようと思います.

はじめに:私は日本酒が好き.ですが…

タイトルの通り私は日本酒が好きですし,これからそれを語ろうとしているところですが,全ての日本酒が好きかと聞かれると答えは明確に "No" です.
むしろ,スーパーや酒屋で売っている日本酒の中では苦手なものの割合の方が多いとすら思います.
前回も書きましたが,私が日本酒にのめり込んだきっかけは「自分でも飲める日本酒との出会い」であり,初めから全ての日本酒を飲めるようになるとは思っておらず,日本酒は多様であるがゆえに人によって好き嫌いがあることは当たり前と考えています.
日本酒はマニアックになるほど面白いという一面はありますが,これから日本酒を飲んでみようと思っている人に対して自身の好き嫌いを押し付けることは適切ではないと思いますし,「日本酒が苦手」という人の気持ちもよく理解できるということは私の一つの強みでもあると考えています.
ただ,私の経験上からも,どんな人でも必ず美味しいと思える日本酒があるはずですので,そういう日本酒に出会って日本酒に興味を持ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思っています.

私が日本酒を好きな理由

前置きが長くなりましたが,本題に移ります.
ここでは好きな味わいや銘柄という視点ではなく「日本酒」という集合を捉えて私が日本酒を好きな理由を大きく以下の3つの観点で整理しました.

1.「國酒」として遥か昔から紡がれるストーリー性
2. 先人達の叡智の結晶とも言える芸術的な醸造技術
3. 多様な飲用シーンに合わせることのできる汎用性

1. 「國酒」として遥か昔から紡がれるストーリー性

長い歴史を持つ日本国において,現在の日本酒に繋がる酒類 … 即ち米を原料とした酒がいつ誕生したのかは議論が分かれるところですが,一つのきっかけは今から約2000年前の弥生時代に伝来した稲作文化であると言われています.
米を原料とした酒造りに関する明確な記録が残っているのは西暦700年頃に編纂された古事記に記された加無太知(麹)を用いた酒や,「播磨国風土記」に記されたカビの生えた米から造られた酒,「大隅国風土記」に記された口噛ノ酒などがあり,神に捧げる神聖なものとして造られていたとされています.
平安時代には朝廷の造酒司(みきのつかさ)にて醸造体制が整備され,当時の律令をまとめた「延喜式」には既に現在の貴醸酒や清酒の原型とも言える製法が記載されています.
その後,寺院勢力の隆盛に伴い朝廷から酒造技術者が流出したことで酒造りの場は寺院へ移り,僧坊酒(そうぼうしゅ)と呼ばれた酒が高い評価を得るようになっていきました.
室町時代には酒造技術の著しい発展が見られ,段仕込法や火入れによる加熱殺菌,酒母(酛)を用いた酒造りに加え,麹の製造・販売を行う麹座が結成されるなど,現在の酒造技術の基礎となる様々な技術が開発されました.
ちなみに,火入れ(低温加熱殺菌、Pasteurization)は1800年代にフランスのルイ・パスツールがワインの殺菌法として発見したとされていますが,日本では先立つこと300年も前から経験的に行われていたことからも,昔から日本の醸造技術は非常に高かったことが窺えますね.
江戸時代に入ると酒造技術はさらに進化し,寒造りの確立と杜氏制度の導入,火入れの一般化,三段仕込法の確立,アルコール添加(柱焼酎)による腐造防止,醸造免許制度など,現代とほぼ同じ酒造スタイルが確立されました.
明治時代には国家の主要な財源であった酒税を安定的に確保するために醸造試験所が設立され,山卸廃止酛(山廃酛)や速醸酛の開発,全国新酒鑑評会を開催して全国から優秀な清酒酵母を採取・培養して頒布するなど,酒類醸造に関する科学的な研究を行うとともに多くの酒造技術者が養成されました.

日本の風土を利用して造られ楽しまれてきた日本酒,本格焼酎,泡盛,本みりんは「國酒」と総称され,それらの醸造に欠かせない麹菌(Aspergillus oryzae)は2006年に日本醸造学会にて「国菌」として認定されるなど,醸造は日本国の歴史や文化と極めて密接に関わってきました.
現在手にすることのできる日本酒はこのように遥か昔から紡がれてきた歴史の上に成り立っており,日本国の歴史とともに盛衰しながら発展してきた日本固有の酒類であると言えます.
こういった歴史を知らなくとも味わいが大きく変わることはありませんが,日本酒が辿ってきたストーリーを理解することで,より一層日本酒の多様性を楽しむことができると思っています.

2. 先人達の叡智の結晶とも言える芸術的な醸造技術

日本酒の原料は水,米,麹という極めてシンプルであるにも関わらず,その味わいは多種多様にわたります.
その理由は原料の違いよりも醸造手法によるところが大きく,造りの差異によってできあがる日本酒の香りや味わいは大きく異なります.
日本酒はワインやビールなどの醸造酒の中ではアルコール度数が高く,世界でも珍しい糖化と発酵を同時に行う「並行複発酵」により麹菌や酵母などの目に見えない微生物を極めて複雑かつ精緻な管理を以て制御することにより醸されています.
造りの詳細についてはまた改めて書こうと思いますが,上述のストーリーと同様,これらを知らないからと言って日本酒の味わいが変わるわけではありません.
ただ,これらを理解した上で日本酒の香りや味わいを因数分解することで,日本酒の解像度が大きく高まることもまた面白いところだと思います.

3. 多様な飲用シーンに合わせることのできる汎用性

現代の日本酒は様々なシーンで飲まれるようになってきました.
日本酒は酸味と旨味を含むために食事の味わいを引き立てたり口直しの役割を担える特性があり,以前より食中酒として和食と合わせて飲まれることが多かったと思いますが,昨今では洋食や中華,さらにはスパイスを効かせた料理など,ペアリングを明確に意図した組み合わせや楽しみ方もよく目にするところとなってきました.
さらに特筆すべきは飲用温度の広さだと思います.
例えば居酒屋のメニューでも「冷酒」と「燗」が用意されていることが多いことからもわかるように,同じ日本酒でも温度帯を変えるだけで味わいや香りに大きな変化を及ぼし,印象が全く異なります.
明確な四季がある日本において,料理との相性や季節に合わせて温度帯を変えながら楽しめることも魅力の一つであると言えるでしょう.(ただ,私自身は正直,燗酒は全般的に苦手です…)
この特性ゆえに,単体では苦手な味わいの日本酒であっても温度帯を変えたりペアリングを意識して料理と組み合わせることで見違えるほど美味しくなることがあり,そういう組み合わせの妙を探すことも日本酒の一つの楽しみ方であると思います.

さて,ここまで私が日本酒を好きな理由を書いてきました.
こんなウンチクを知らなくても美味しければいいという人もいると思いますし,私もそれでいいと思います(笑)
ただ,今回こうやって自分の思考を言語化してみたことで私自身の日本酒に対する解像度がまた一段上がった気がしますので,これからも日本酒ライフを楽しみながら色々と発信していければと思います.

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