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五線譜の裏切り 創作

くるみと別れた後、
何とも言えない感覚に陥っていた

それだけこの二時間は自分を見つめなおすのにいい時間であった

私はピアノが好きだ

好きで好きでたまらないんだ

どんなに苦しい思い出が詰まっていようと
どんなにピアノから距離を置こうとしても

気づけばあの真っ黒な椅子に座って音楽を奏でている

誰かに見てもらいたい
誰かに評価してもらいたい

ううん

私はただここにいる私だけのために音楽を奏でたい
それを周りが勝手に見て評価するだけ

これがカフェで思い出した私の思いであった

ありがとう、くるみ

いない友達に対して何を発しているんだと思いながら
再度感謝を述べた

それだけにくるみは私の頼りであった

家にはまだ誰もついていなかった

一目散に自分の部屋へ行き、血の付いたピアノを見る。
落ち着いた今となっては、それを見ても体に異常をきたすことはなかった

そっと血の付いた白鍵をなぞる
数週間たっていたため、すでに乾ききっていて、さらさらと音が鳴る

「妹のために頑張ってくれてありがとう」
そう言って、久しぶりに黒い椅子に座った

座る前までは正直、指が震えていて弾けるかどうかも怪しかったが、座った瞬間にその震えは収まり、私の思うがままに弾くことができた

長年の付き合いであるピアノは思い通りの音となって耳へと入ってくる
徐々にテンションが上がってきた私はもう、目の前のピアノのことしか考えられなくなっていた

楽しい

言葉にはしなかったものの、自分の指先と音から否応がなく伝わってくる
私の好きなジャズとオーケストラを組み合わせたような演奏だった

心ゆくまで弾き終わったときには、びっしょりと汗をかき、得も言われぬ快感を感じていた

あー、なんでこんなに大切なピアノを手放していたの?もう最悪!!
ギャルみたいな声で言った

いつもの私に戻っていた

そして、数時間がたち両親と妹が帰ってきた

両親はすぐに夕食の準備をするといって、キッチンへ向かった

妹は倒れた後、普段通りを装っていたがいつもの明るさはなく、私と妹の間には辛気臭い空気が漂っていた

「さやか、私がとっておきの見せてあげるから私の部屋の前で目つぶってて」

普段通りに戻った私は、笑顔でそういった

その表情で察してくれたのか、妹もいつものテンションで

「うん!!」
といった

私は目隠しした妹を部屋の前まで連れていき、
「ここで待っててね」
と言って、自分は部屋の中へ行った

もしものことで、妹が目隠しを外しピアノを見ないようにドアを閉めた

いもうと、いや私
聞いててね

そう思い私は弾き始めた

曲はもちろん即興で、思うがままに弾く

私の今の思いは

ありがとう

ただ、それだけだった
ありがとう
その言葉のために私はピアノと対話する

優しいありがとう
苦しいありがとう
幸せのありがとう
素直なありがとう

自分の思いつく限りのありがとうをそこで奏でた

先ほど、汗をかいていたこともあり、しずくがぽたぽたと鍵盤に落ち血が少しにじんでいた

当時の私は気にする余地もなかったが
その血がにじんでいき、消えていくように妹はピアノに対する嫌悪感がなくなったという
うれしい限りだ

私と、ピアノとの対話は一時間以上続いていた
だが、その一時間はあまりにも短かく、濃密であった

今日はこの辺で終わりにするね!
今日も”ありがとう”

そう言って

曲が終わると

「こちらこそ、ありがとう」
というようなメッセージが耳に残る余韻を通して聞こえてきた

しばらく余韻で天を仰いでいた私を正気にさせてくれたのは妹であった

目隠しににじむほどに泣いていたのがわかる

「本当にありがとう、お姉ちゃん」

その顔には笑顔が映っていた

「そういってもらえてうれしいよ、ほらいい匂いがしてきた。ご飯食べるよー、今日は何かな」

そう言って妹を押していった


「そう言えばさ、なんで楽譜持ち歩いてるの?いつもみたいに即興で弾けばいいじゃん」

そういうくるみに対して

「確かに即興でしか弾かないのはそうなんだけど、この子たちがあって得することもあるんだよ、フレーズを借りるとか」

「だから、皮肉なもんだよね。自分で「この曲は自分が作ったものなんです」って言い張ってても、実際、ベースにあるのは楽譜なんだから」

「まあ、助かってるけどね」

「じゃあ、いいじゃん」


ここまで読んでくださりありがとうございました。
このような形の作品を初めて作り、改めて小説の難しさを知りました
これからもっとうまく書けるよう、頑張っていきます!!

次のシリーズも作っていきますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです

それでは、また
じゃあね
くるみ
さやか
かや



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