カブトムシ
仕事が終わって、暑さと疲れでフラフラになりながら、やっとたどり着いた家まで残り数メートルの地面に、昆虫がひっくり返っていた。
夕食の準備やら何かとバタバタする時間帯で、普通ならスルーするところ、好奇心の方が勝ってしまった。というのも、いつも見かけるカメムシやコガネムシに比べて明らかに大きかったのだ。
もしかしたらもう息絶えてるかも、、。そう思いながら日傘の先で軽く突いてみると、ガシッと思わぬ強い力で掴まれた。凄い力だ。今、連日盛り上がりを見せているオリンピック柔道の寝技を連想した。カブトムシvs日傘。不意打ちをくらった日傘は為されるがままなので、私が介入して何とか引き離した。力強いがとても繊細な手足を傷つけないように。
裏返すとメスのカブトムシのようだ。やはり、カブトムシは昆虫の中でも特別感があるなぁと、小学生のような事を考えつつ、これも何かの縁なので(!?)部屋に連れて帰る事にした。
うちの植物の中では一番の大木であるベランダのガジュマルの幹の上にそっと置いてみたが、しばらくすると、落ちて地面にひっくり返っている。色々な場所を試して、結局、プランターの中に落ち着いた。このプランターは鑑賞用ではなく、剪定したガジュマルの挿し木や、ポーチュラカの挿し芽、使用後のねぎ、去年の種が落ちて発芽した紫蘇、私が好きな野草で、種を採取して撒いたニワゼキショウや露草など種々雑多な植物が勝手気ままに育っている。
カブトムシは土の上に置くと、障害物などものともせず前進を続けていた。脚を地につけるとすこぶる元気に見える。しかし、ちょっと目を離すとひっくり返って自分では起きあがれない。
夜寝る前に再度、様子を見に行った。また、ひっくり返っていた。
願わくば、明日の朝見に行ったら、影も形もなくなっていて欲しい。そうしたら、夜の間に元気を取り戻し、星の煌めく夜空に颯爽と飛び去って行ったと思えるから。
でも、もしももう飛び立つ力が残っていないなら、何のお構いも出来ないけど、生まれた場所より少し窮屈かもしれないけど、プランターの緑の中でゆっくり休んでね。
次の日、出勤前に確認すると未だ未だ元気で前進を続けていた。
帰宅後、小さな命の炎は静かに消えていた。