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はじめての最後#17の続き

遅くまで営業しているアジアンダイニングCafe&bar的なお店に到着し、誰もいない店内で2人座った。
平日の夜遅く、貸切状態。
店内には大きなテレビがあって、いつも音声なしの古い洋画が流れている。
今夜はトップガン。
懐かしい映画の若かりしトム・クルーズ。2人とも相手役の女優さんの名前が思い出せなくて笑った。
「この人綺麗だよね。いかにも典型的な外国人美女って感じで」
確かに大変美しい人だった。
「この後この2人やっちゃうんだよ」
と子供みたいに言う彼。
「じゃあそのシーン来たら教えて」
彼と映画とか見てみたい。
彼と何かを、共有したい。し続けたい。たくさん。
この日で10月はおしまい。
あと1ヶ月だ。
とうとう、私の人生史上初の1ヶ月が始まった。
大好きな人を失うまでのカウントダウンmonth。
あと1ヶ月で彼は遠くへ行ってしまう。
この夜、何を話したんだか、3時間の滞在時間は目にも止まらぬ早さで過ぎ去った。
終始楽しい。お互いの過去の結婚の話しや家族の話し、彼の趣味の話し、トップガンの話し、三連休の予定の話し、とりとめもないことを話しながら。
私は、仕事終わりでくたびれた彼の顔つきと、忙しくて美容院に行けていない伸びた髪を、今目の前で遠慮なく見つめることができるのだ、、、と噛み締めた。
食べ物を躊躇なくシェアする彼が、私に心を許してくれている証のように感じた。
元々気にしない質の私達だが、昨日お魚の南蛮漬けを
「ちゃんと半分食べな。切りづらかったらかじっていいから。」
なんだか、お世話してくれているみたいで心地よい。
こうして会う度に、彼の新しい一面を見つける。
2人で食事をすることが当たり前みたい。
当たり前のように、彼がトイレに行った隙にアイスとコーヒーを注文して食べる私、にこやかに眺める彼。
幸せだ。
きっと彼は、オーダーするとか店員さんを呼ぶとか、自分がしたいタイプの人。私はどうでもいいタイプ。
ただ声がでかい私は、よく率先して店員さんを呼ぶ係をしている癖で今までいつも通りスイマセーンと言っていたけど…もう何となくわかったから、昨日から彼に任せることにした。
こういう些細なことが、フィーリングで伝わった時、じんわりととろけるフォンダンショコラみたいで。
好きな人と食事をするだけで、どうしてこんなに幸せな気持ちになるんだろうね?
改めて実感することが出来た奇跡に感謝した。
彼は、楽しかったかな…昨日。

店員さんは静かに外へ出て、外看板の電気を消して片付けた。
ラストオーダーですとのかけ声はなし。
なんて素敵な人だろ。
だからこそ、もうそろそろ出ようかと言った。
時間は1:00を過ぎていた。
いつものこと、と言わんばかりに、彼はカードでさらりとお会計をしてくれる。
「いつもごちそうさま」
と言った私に、にっこりする彼。
お金を払わずに食事ができたことが嬉しいのじゃなくて、私が大好きな彼の所有物になったかのようで。
まるで、自分の持ち物の責任は僕が取りますよ、という感じのあの感じ。
女ってその感覚が、嬉しいんだと思う。
まるで嫁扱い、とでも言えば簡単に伝わるのかしら。
そういえば、元々たぶん亭主関白気質のある人だろうな、と感じることがある。
あぁ、この人の所有物になりたい。
と思った。
ただ、私という人間は、所有物になりたいと言いながら、なったあかつきには「私は誰のものでもない」と自己主張するような扱いづらい人間だから困っている。

店を出て、彼の家まで送った。
あまりにも近いその距離が憎らしい。
マンションの入口手前で止まろうとしたが、
「少し過ぎて」と彼が言う。
少し過ぎた駐車場に停めた。
当たり前のようにキスをしてきた。
軽めのキス。
え、これだけ?
と思った気持ちを見透かされて
「もっとして欲しいみたいな顔して」
と言ってもう一度キス。
今度はもう少し長めに。
けれども、今夜の彼は寝不足&お疲れで。
「今日は出来ないよ」と言った。
私だって生理だ。しかもキスしようとは言ってない。
滲み出ていたか、は知らないけど。
更に言うと、別に私から今からセックスしようなんて言ってない。
「わかってる。今日は無理でしょ。でもだったらいつできるの?わたしたち。」
彼のほっぺのシワを伸ばしながら言う私に
「しなくても、すごく楽しいよ」と言った。
その言葉に
「え、もうしたくないの?」と聞く私。(アホ)
「そうじゃなくて、してなくても一緒にいるだけで楽しいって意味」

うーん。
この時の私は、どうにも寂しくて。
腑に落ちなかったし、もっと求めて欲しかった。
けど、このことを友人に言うと
「私めっちゃ嬉しいかもーそれ」
とのこと。
そうなの?
性的な魅力がないけど、話しは面白いよっていう
そういう意味かと思う言葉じゃないの?
なのにキスはしてくるんだ?
どなたか、この迷える子羊に、彼の気持ちを違う言い回しで理解しやすく変換してくれないものか。

短めの別れ際タイムを終えて、彼を降ろした。
幸せに満ちていた。
この三連休に会えないし、来週以降の約束だって何にもないけれど。

私があなたをだいすきだって伝わったかな。
くだらないかもしれないけど、こう見えてハロウィンに仮装して誰かに会いに行ったのは生まれて初めてだったのよ。
あなたはオコだったけど、その表情と感情を見せてくれたのだって、初めてだった。
こんなに短い時間で、夜にしか会えなくて、あなたのことをまだまだ少ししか知らないけれど
どうしてこんなに胸が痛くなる「すき」が湧いてくるんだろう。

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