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短編小説「戦場での生存確率」

「戦う意味って、なんだ?」
 私は、自分の銃を分解して組み立てていた。
機体はガタゴトと音を立てる。私は、僚友からの質問を無視して、組み立てることに集中する。

 しかし、彼はなおも続ける。
「オレ達にとって、この戦いとは正義なのか?」

 戦うことに、意味なんてないだろ、私はそう口にしようとしたが、やめた。口論しても仕方ない。
 いちおう、戦うことの意味は、上層部が考えている。
「守るためだろ」
 私は、簡潔にそう答えた。議論したところで、答えなんて出るもんじゃあない。人は不安になると、意味を導きたくなるものだ。

「何を守ればいいんだ」
 僚友は、組んだ自分の手をじっとみつめて、つぶやいた。大気との摩擦音で、聞こえなくなるぐらいの声だった。
 私は、組み立て終えた銃のシリンダーをガチャリと回した。
「戦場で、そんなこと考えてると死ぬぞ」
 弾を丁寧に1つずつ込めながら、吐き捨てるように言った。こんなオモチャでも、無いよりはマシだ。私は自分の銃を見ながら、思った。

 なぜ戦うのか。なぜ戦わなければならないのか。それは、お金がないからだ。権力がないからだ。
 ただ、それだけなんだ。もっともそうな理由は、政府が考える。口当たりの良い言葉。高揚しそうな言葉。そして、鎖でつながれた幾ばくかの紙幣。
 奴らは戦場に立つことはない。ただ、命令するだけである。生きるために、死にに行く。なんとも、馬鹿げている。

 僚友は、何かを考えているようだった。不安で押し潰されそうなのか、それとも、戦場に向かうことに不服があるのか。
 どうせ死ぬなら、自分が納得するかたちで散っていきたいのだろう。信念をもって、後悔がないように。ただ、後悔があって戦場でやられたところで、同じ死なのに。

 私は、無意識に首から下げたペンダントを掴んでいた。
 まあ、大事にしているものが1つぐらいあってもいいじゃないか。

 さて、生き残ることを考えることは、はたして、浅ましいことなのだろうか。

「オレは死ぬ。おそらく、この戦いで死ぬ」
 僚友は、肺の奥から声を吐き出した。
「そうか。お前が死なれると、私の生存確率が下がるからな、出来れば作戦完了時間のギリギリまで生き延びてくれていると助かるのだが」
 私は銃口を確認しながら答えた。

 僚友は何か考えごとをしているようだった。
 私は、優しい言葉なんて、戦場には必要ないと思っている。作戦完了して生き延びるか、それとも死ぬか。もしくは、作戦が失敗に終わるかである。

「生きたいか?」
 私は僚友に言った。
「死にたい」
 僚友は答えた。

 困ったものだ。僚友がいないことを計算して、任務を遂行しなければならない。立て直さないとな。
 私は少しだけ、そう考えた。

 すると、スクッと僚友は立って、腰から銃を引き抜くと、操縦席の方に向かっていった。

 私は、無言でパラシュートの用意をした。
この機体が、戦場に到着することはないだろう。

「まあ、それも計算のうちかな」
 私はニヤリと笑った。


おしまい

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