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なんの波乱もない家庭10

👇登場人物紹介👇

咲(さき)…カズヤの嫁

カズヤ…咲の旦那

カナト…2人の息子

お義母さん…カズヤの実母で咲の義母

お義父さん…カズヤの実父で咲の義父

お母さん…咲の実母

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〜今回もカズヤと咲が結婚する前のお話〜

カズヤがクリスマスイブに向けて密かに肉体改造を決意した日、咲はプレゼントについて悩んでいた。

物欲なくて、欲しいものは自分で買えちゃう男の人って、何あげたら喜ぶんだろう?

手作りケーキとか手紙とかは響かなそうだし、でもなんか喜んでほしいんだよなあ。せっかく時間作ってくれるんだし。

次の日も仕事だからもちろん早めに解散するとして、2時間くらいのサクッとデートで満足してもらうためにはどうしたらいいんやろうか。

咲はずっと考え込んでいた。

いい年してピュアな女なので「結婚を前提に」という言葉を丸っきり鵜呑みにしていた。(遊び人の常套句や、という母のノイズはまるっきり無視することにした)

やっぱ亭主関白な昭和世代の男性相手には良妻賢母キャラでいかんとな。

などと最初の数カ月は色々演じていたものの、カズヤの反応が悪いので次なる作戦を考えていた。

安心させつつ、適度な刺激を持って飽きさせないけど、たまに甘えさせる。

勉強熱心な咲はInstagramで息をするように男心についての記事を読み漁っていた。

結局は自分軸を持ってさえいればいいのかー忖度しすぎてたなあ~

などと反省しつつ、想ったり尽くすのが好きな性分なので基本的にはМの姿勢でカズヤに接していた。

カズヤさん、たまに目が虚無ってるんだよなー
シニカルなことも言うし、あんなアニメ(PSYCHO-PASS)好きとか、厄介な人やでほんまに。

といいつつ、気になって仕方なかった。

惚れとるな、いつのまにか。

咲はため息をついた。カズヤを追いかけてるなと自覚する時、いつも同じ曲が脳内再生される。

追いかけても追いつけぬ幸せはそばで待ってるだけ
楽しいことばかりじゃないけど
やなことなんていつか思い出話する日の
花になるまで

宇多田さんのGoldという曲だ。気持ちを代弁してくれている気がして、聴いているとホッとする。

さて、なんとかイブの約束は取り付けた。あとは当日どう過ごすかで今後が変わってくるやろうな。

機嫌よく過ごすのは当たり前として、人生のパートナーだと感じてもらうにはどうしたらええんやろか。

自信無くなってきたなあ、、、

咲は鏡をみて自分の見た目を気にした。この年になると、やはり目尻のシワが気になってくる。

そういえばカズヤさん、精神的にタフな女の人が好きみたいやから、見た目じゃなくてやっぱ心を鍛えんならんな。

よし!

咲はおもむろにAmazonプライムを開き、ドクター・ストレンジを観始めた。

精神力鍛えるといえばやっぱドクター・ストレンジやろ!

頭の片隅で、ちゃうねん、咲、そういうことじゃないねん、と苦笑いしているカズヤさんもいたが、咲は無視することにした。

要するに、めんどくさくなったのだ。

久しぶりに観たドクター・ストレンジはやっぱり最高に面白い。

主人公のストレンジが大きな交通事故に遇い、キャリアも恋人も何もかも失ったのにもかかわらず、腐らずに修行をして自分を見つめ直して新しいチカラを開いていく過程が、見ていて勇気をもらえる。

私も頑張るで🔥

映画で気力を充電した咲は、カズヤさんが好物だという焼きうどんの研究に勤しむことにした。

目玉焼き、炒飯、焼きうどん。

オムライスとかローストビーフじゃないところになんとなく哀愁を感じる。

これはもはやカズヤ研究部部長やな、と1人でブツブツ言っていると、同居している母が声をかけてきた。

「あんた、男は追わせんならんよ。尽くしたり追いかけたらいかん。いつも奢ってもらいなさい。」

「えーそやけど、高いもん食べたいわけじゃないんやあ」

「そういうことじゃなくて、自分をしっかり持って相手から欲しがるようにさせなさい、って言ってるの。」

「でも素直が1番やないの?私は私の人生のためにカズヤさんのことが必要なんやけど」

「ま、ええわ。好きにしなさい。向こうの家で姑にいじめられても帰ってきたら行かんからね。」

「うん。たぶんめちゃめちゃ苛められる予感しかせんわ。夢でもあっちのお母さんから釘刺されたもん。会ったこともないのに!」

「タカトシのときみたいにならんようにね」

タカトシ。その名前を聞いて、咲は動揺した。大学1年の頃に出会ったヒト学年上の元彼。5年間付き合ったが、結局別れてしまった。

自分からフッたにも関わらず、あの時の喪失の痛みは忘れられない。

「もうその話はせんといて!!!」

「連絡してみれば?まだ結婚しとらんかもよ?」

母が煽ってくる。

「ありえんて!ほんとやめて!」

咲はついに泣き出した。咲の母はやりすぎたと思い、そっとその場を離れた。

咲の頭の中にはヒルクライムの「春夏秋冬」が流れていた。

タカトシとの初デートは渋谷のお寿司屋さんやったなあ。春夏秋冬、という店で、大学生のくせにお会計が2人で1万円近かったのでびっくりした覚えがある。

ふたりでカラオケにもよく行ったなあ。3時間くらい熱唱して盛り上がったな〜ヒルクライムの春夏秋冬歌ってくれたなあ。

タカトシ回想モードに入ってしまった自分に気付き、頬を叩いた。

いかんいかん!元カレの思い出に浸る女なんて、誰も貰ってくれんぞ!今の相手に集中!  

変なところで体育会系の根性が出る咲は無理やりタカトシのことを頭から追い出そうと試みた。  

野猿を聴くとタカトシのことを思い出すので、なるべく聴かないようにしている。

「カズヤさん!今は、カズヤさん!」

咲は念仏のように唱えた。よし、もう一回カズヤさんのprofileを書き出そう。

ノートを開き、カズヤさんの好きなとこを書き出した。10項目くらいサラッと出てきた。嫌なとこは3項目くらいだった。

まだまだ大丈夫。きっとこれからもうまくいく。やっと打ち解けてきたくらいなんだし、来年か再来年にはきっとお互いに家族になる覚悟ができるはずや。

3割ほどの不安を抱えながら、咲は焼きうどんのレシピを調べ直した。

いつ食べさせるかもわからんけどな、と咲はまたため息をついた。

つづく

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りおたろう
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