ドラマ|いちばんすきな花 第10話
4人の日常は進んでいく。美鳥ちゃんの出来事は、日常の少し大きな出来事でしかなく、4人それぞれの明日はまたやってきたんだなと感じました。
ドラマの感想を第8話からnoteにまとめていて、これは最終回まで綴るのだろうか、でも書く力が湧かなければ無理するのはやめよう、と考えていましたが、またnoteを書いています。
いちばんすきな花は、私に表現する力をも与えてくれている偉大なドラマです。
いちばんすきな花(第10話)あらすじ
暖かいため息が出た箇所
好き同士が両想いとは限らなくて
今回は、ふたりの恋心がはっきりと描かれる話でした。
ひとりで第10話を見ていたのですが、夜々ちゃんが椿さんに「私ってやっぱり可能性ないですか?」と問いかけたのちの展開には、胸がうううと苦しくなり、ひとりでは抱えきれず机に突っ伏しました。
夜々ちゃんは椿さんのことを恋愛対象としての好きだけど、椿さんは他3人と同じように夜々ちゃんのことが好き。だから両思いにはなれないのです。
第2話で椿さんがオクサマに伝えていた言葉が、このタイミングになって私に響きました。
紅葉くんがゆくえにも気持ちを伝えました。期待していないけど、自分がどう思われているのか、紅葉くんは答え合わせをしたくなったのかなと思います。
「弟みたいな感じ?」と尋ねたら「紅葉は、なんかまあ、紅葉って枠でしかないよね」とゆくえが答えを出しました。
以前、紅葉くんが椿さんに「ゆくえちゃんはゆくえちゃんって感じ」と表現していたのとある意味同じ答えが返ってくるけれど、ふたりのそれは一致していないのです。
相手の存在が友達や家族と括れないのは共通しているけれど、紅葉くんがゆくえに感じる好きは、ゆくえが紅葉くんに抱く好きとは違いました。
お互い好き同士だけど、好きの質が違うことで両想いにはなれない。第2話で椿さんの言葉を聞いた時よりも、この意味がとてもしっくりきました。
椿さんもゆくえも、”試しに”や”好きは好きだから”と付き合ってみればいいのに、そうはしないんですね。
自分の気持ちも相手の気持ちも、敏感に理解して想像しているからこそ、中途半端なことはしない。本当の優しさに触れた気がしました。
「両想い」でいうと、この4人の中では、男女ふたつの両想いが成立しています。
一つ目は、夜々ちゃんと紅葉くん。第10話の最後、失恋ほやほやのふたりは電話をします。「紅葉くんで寂しさ埋めたろって気にならないから、紅葉くんはやっぱ友達だわ」「大丈夫、同じこと思ってる」
夜々ちゃんの生い立ちやこれまでを考えると、紅葉くんとの両想いはものすごく貴重です。大切だからこそ、紅葉くんに対して失礼なバイト先の後輩に向かって、夜々ちゃんはあそこまで怒っていました。
お友達を守るために怒るってカッコいいです。夜々ちゃん、お目目飛び出そうでした。
二つ目は、椿さんとゆくえ。以前の話で、ふたりはお互いにタイプじゃないことが発覚しています。これもある意味、両想い的な関係なのかなと勝手に解釈しました。
恋愛の両想いは成立していないけど、違った両想いが共存している関係性。どのふたり組にも好きな気持ちは存在していて、どの組み合わせもわたしは好きだなと思います。
間違いの丸つけ
第10話の根幹はこのお話な気がします。人と違うと思われてきた美鳥ちゃんをはじめ、春木家に集まる4人、そして希子ちゃんを囲む人々をクリティカルに指摘していました。
セリフや描写から考えさせられることも多く、やや難しいなと思い、一回二回ドラマを見ただけでは全てを掴みきれません。それでも私が考えたこと、気づいたことです。
希子ちゃんが穂積くんに学校で話すシーン。(この歩きながらのシーンは二人のお芝居が光ってましたね…)
第10話冒頭では、夜々ちゃんと美容室の同僚が、間違い探しの絵本に赤丸がついているのを見て「自己顕示欲が強い」「みんな丸つけたくなるんですね」と会話をします。
さらに、居酒屋にいた紅葉くんのバイト先の後輩は、元カノの悪口を共有して結束を深めていました。
誰かの間違いを指摘することで、自分の正しさが証明される。一対多数の世界で、多数にいる人たちは”一”を作ることで、安全地帯に身を置くことができる。
希子ちゃんの独白シーンは、多数派に所属される人が、少数派になっていく人に対して、ごく自然にかすり傷をつけることを表現していました。
希子ちゃんは賢い子です。多数派のみんなの中には、間違っていないことを間違っていると言うのがしんどい子もいる、と想像しています。
だから、自分が間違いになることでみんなの秩序を守っている、そう思ってしまうのです。
ゆくえが「多い方が正解なんてことはない」「しんどい時は自分のことだけ考えていいよ、自分のしんどさが一番でいいの」と寄り添うのは、ひとりだと感じている希子ちゃんには温かく沁みる言葉だったと思います。
りおの好きなシーン
命を繋いでいく
冒頭、夜々ちゃんが働く美容室で間違い探しの絵本が破れているシーン。ボロボロで赤丸がついているので使い物にならない状態に、同僚は捨てていいよと言います。
でも、夜々ちゃんは絵本をセロハンテープで補強して命を繋いでいきます。破れているページは美鳥ちゃんの描写のような気がしました。
きっと、美鳥ちゃんにとって勘違いをそのままにせず、大切にし向き合ってくれている存在が、夜々ちゃんや他の3人だったのだと思います。
破れている絵本のページに描かれていたのは「ブレーメンの音楽隊」でした。ブレーメンの音楽隊は、ひとりぼっちのロバが仲間を一人また一人と増やしていき、音楽隊を結成する物語です。
旅の途中、ロバを含めた4匹が見つけたお家に、泥棒がいました。4匹で力を合わせて泥棒を撃退し、その後4匹はその家で平和に暮らすのです。
なんだか、春木家に集まる4人みたいと思ってしまいました。絵本のページにも物語の生命が宿っていて、驚きでいっぱいです。
春夏秋冬のお話
春木家で、椿さんが桜はあまり好きじゃないと言った後のゆくえのセリフ。
正直、私の理解力では、ゆくえちゃんが何を伝えたいのか一瞬わかりませんでした!
でも、なんとなくですが、私たちがある時期を「春」と言語で記号化するのは、他のある時期と区別するために「春」とよんでいるであり、他の季節があるから一つの季節の個性を感じると言うことなのかなと思います。
確かに、急に肌寒くなるともう秋が終わっちゃったと言うことがありますよね。
ゆくえが「春は春、夏は夏」といった後に、紅葉と夜々ちゃんが部屋に戻ってきます。続けてゆくえは「秋は秋、冬は冬」と。
季節と同じように、春木家の4人も、他の3人がいるからこそそれぞれの個性が生きてくる。”みんなとひとり”の表現が、希子ちゃんの時に述べられている「間違い」と異なり、ひとりの個性は、みんな、つまり他の人がいるからこそ輝くことを表している気がしました。
次回で最終回です。4人の日常はドラマとは関係なく、このまま進んでいくように感じてしまいますが、物語としては確実に終わりの匂いがし、とても切ないです。
春木家にちょっと住む3人と椿さんの様子をあと一話分、目に焼き付けたいと思います。
第9話の感想noteはこちら↓