見出し画像

真夜中のパンの誘惑

夜中に食べるものは何でも美味しいと思うが、中でもパンは格別だ。

私の最寄駅にはパン屋さんがあって、遅く帰った日は大抵セールをやっている。
別にセールがなくてもパンは食べたくなるものだが、値引きとなればこれ幸いと、ついつい寄って帰ってしまう。

私はあんこをこよなく愛しているのだが、まあ総じてそういうパンはカロリーが高い、というかそもそもパンは主食枠の炭水化物なわけで、少なくとも夜中にむぐむぐやるものではないと思うのだけど、それはそれとしてこの間はすごいものを買ってしまった。

きなこ揚げパンである。

見覚えのある存在感のコッペパン。
周りにはじゃりじゃりのお砂糖をまぜたきなこがたっぷりとついている。

きなこ揚げパンといえば給食の花形だった。
私にとってはきなこ揚げパンが王様でスペシャルパン(生クリームが挟んであって真ん中にいちごかみかんが1粒のっている)が女王様。
なぜかその当時、甘いものをご飯にするのは悪いことだと思い込んで生きていたため、その二つは私の中でかなり特別であり、しかも堂々と給食に出てきてくれるので、「ああこんな甘いものをお昼に食べちゃダメなのになあ、仕方ないなあ、食べるしかないなあ」と心の中で誰かにわざとらしく言い訳をしながら食べるのが好きだった。
何事も禁止されると、その楽しさは倍増してしまうのです。

きなこ揚げパンは食べると手がじゃりじゃりになるからそのまま箸とか牛乳パックとかを持つのが嫌で、他の献立を全て食べきってから食べ始めるというマイルールがあった。そして当時の小学校は夏の盛りでもなければ水筒を持ってきてはいけなかったので、つまり水分がない状態で挑む、しかも手が汚れる、でもそれを補って余りある美味しさ。
まるで横暴な王様のようだ、なーんてにやにやしながら食べていたし、時々は余り物じゃんけんにも参加していた。

さて、夜中のきなこ揚げパンだが。

ワクワクしながら一口かじると、さっくりした食感に驚いた。パン生地はなめらかに口の中でとけていく。唇に少しついてざらざらするお砂糖。パンのなかみはふんわりしていて、きなこの香りも高く、パンとしてかなり完成されていた。

ここでふいに思い出したのだが、私の食べていた給食の揚げパンは三つ編みかねじりこんにゃくみたいで、引っ張りながら捻られて成形されたものだった。
コッペパンよりも多分表面積が広いから、油をたくさん吸ってすこしじっとりとしていて力をこめてちぎらないと引きちぎれず、だから箸で食べるのも断念していたのだった。

私はどこでこの懐かしいコッペパン型のきなこ揚げパンを知ったのだろうか。
甘くて、手がべたべたじゃりじゃりして、どちらかというとヘビーな思い出のきなこ揚げパンを忘れて。

コッペパンの方のお上品なきなこ揚げパンは、あっさりとあっけなくお腹に収まったのだった。
また買おうと心を躍らせつつ、翌日は胃もたれでしんだことは言うまでもない。

いいなと思ったら応援しよう!