とある歌姫の門出
街の酒場で評判の歌姫がいた。
時に繊細で、時に力強く、心に響く彼女の歌は酒場の客の楽しみだった。
ある時彼女は街を出る決意をする。
王都で歌手として名を上げ、王の祭で歌うためだ。
客たちは悲しんだ。
「この街でいいじゃないか」
「都なんて危ないよ」
「俺たちを捨てないでくれ」
思った通り口々に反対の声が上がる。
だが、彼女は気が付く。
誰一人、彼女の歌が都で通用しないとは言っていないことを。
客の一人が言った。
王の祭だろ、俺たち総出で見に行くよ。
大丈夫、あんたならできる。
うちの街の出身って王都のやつらに自慢させてくれ。
客たちの応援を背に、彼女は力強く、王都へ歩き出した。