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note連続小説『むかしむかしの宇宙人』第22話

前回までのあらすじ
時は昭和31年。家事に仕事に大忙しの水谷幸子は、宇宙人を自称する奇妙な青年・バシャリとひょんなことから同居するはめに。二人は空とぶ円盤研究会に入会し、定例会に参加することになったのだが……。

→前回の話(第21話)

→第1話

続いて、荒本さんがにこやかに言った。

「バシャリ君、よく来てくれましたね。それに幸子さんも。今日は楽しんでください」

「荒本、お招きいただきありがとうございます。

地球人の有識者だけによる空とぶ円盤研究会の会合に、宇宙人である私の参加を許可するという荒本の度量の大きさには感服しております

バシャリが大げさに礼を言った。荒本さんはわらいを含みながら、

「バシャリ君の話には大いに期待してますよ」

と言い、おもむろに立ち上がった。

一同が、荒本さんに注目する。ざわめきが収まるのを見はからい、荒本さんは新聞の切りぬきを大量に貼りつけたノートを広げた。

「では月例会をはじめます。まずは新しい空飛ぶ円盤の目撃例から発表いたします。朝陽新聞に掲載されておりました。

福山市で十二機の空飛ぶ円盤が編隊飛行するのが目撃されました。

全体がベールで包まれているような感じだったと書かれています」

斜めうしろの男性たちが、深刻そうな面もちでささやきあっている。

「十二機か……アーノルド事件の九機よりも多いじゃないか

「それだけの数となると、単機での飛来とはまた違う目的があるんじゃないだろうか」

空飛ぶ円盤が飛来した目的は一体何なのか、という疑問に、みんなが口々に意見を述べた。荒本さんはその意見ひとつひとつに自身の見解を加える。

瘦せた男性がさも恐ろしげに言った。

「円盤の数が増加したというのは由々しき事態だ。単機での飛来ならば偵察行為だろうが、複数機となると地球への総攻撃の準備ではないだろうか?

 すると、赤ら顔の太った男性がすっくと立ち上がった。

「そんなはずがないだろう! 宇宙人がそんな馬鹿げた行動をとるはずがない

「あなたの宇宙人平和論はもううんざりだ。もっと現実を直視しろ」

言い争いがはじまってしまった。

話を聞いていると、一人は医師で、一人は大企業の役員。どちらも世間がうらやむ一流の職業だ。

宇宙人はいいものか、わるものか……とても賢い人たちが、目の色をかえて口論する内容ではない。

一体、日本はどうなっているのかしら……? わたしは、信じられない気持ちで聞いていた。

そのとき、バシャリが突然口をはさんだ。

「十二機で訪れる空飛ぶ円盤といえば、メネス星雲あたりの星人でしょう。

十二というのは彼らの家族の単位でもあります。

なぜか、あのあたりの星人は家族という形式を十二という数で形成します。たとえば家族の一人が死亡すると孤児を養子にしたりと、ありとあらゆる手段で家族の数を十二人にそろえるのですよ。

たぶん、指が十二本あるからかもしれないですね。おそらく彼らの目的は、家族そろっての地球人観察ですよ。

地球への攻撃のためではありません。彼らは物見高い星人ですので、あらゆる星に観光に出かけます。まさかこんな辺境の星にまでやって来るとは私も思いませんでしたが」

 星野さんが間髪をいれずに言った。

「まるで動物園だな。地球人は猿やチンパンジーと同じというわけだ」

「まさにその通りです」と、バシャリが頷いた。  

みんなは呆気にとられている。口論をしていた二人も、あんぐりと口を開けていた。

腹まきをした妙な風体の美青年が、突然力説をはじめたのだ。無理もない。

荒本さんがにこやかに説明した。

「みなさん紹介しておきましょう。彼の名前は、バシャリ君。

アナパシタリ星からやって来た宇宙人だそうです

会員から呆れたようなわらい声が起こった。

→第23話に続く

作者から一言
空とぶ円盤研究会では、こんな感じで真剣な宇宙人論がくり広げられていたんですよねえ。
しかもインテリの人が本当に多かったんです。この当時の人と現代の人では、宇宙人観がまったく違ったんじゃないでしょうか。日本のSFがここから勃興したのがなんだかわかります。
ちなみにメネス星雲の宇宙人は、天の川銀河では結構頻繁に見受けられます。

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