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世界は十年で変わる

いつもお世話になっています。作家の浜口倫太郎(@rinntarou_hama)です。

歴史の中で人々の暮らしにほぼ変化がなかったのが、中世ヨーロッパの時代じゃないでしょうか。500年から1500年までの千年間ですね。

いわゆる異世界転生ものの舞台でもあります。ここに魔法とゴブリンとドラゴンと冒険者ギルドを加えればいっちょあがりです。

なぜこの世界が異世界ものの舞台になるかというと、トルーキンの指輪物語やドラクエなどのゲームでこの世界が広く知れ渡っているからです。

あと他の理由が、『変化が少なかった時代』だからだと思うんですよね。

小説、映画の世界ではノスタルジーが好まれるものです。というのもそこに安心感を求める、人間の深層意識的欲求が働いているからじゃないでしょうか。

例えば一人都会で必死に働いている人は、たまに田舎の実家に帰るとほっとするじゃないですか。実家は安心感の象徴なんです。

その変わらない安心の最大のものが、中世ヨーロッパの世界観じゃないですかね。まあ僕が考えているだけの仮説ですよ。

ところがこの不変の世界も終わりを告げます。

グーテンベルグが活版印刷を発明し、宗教改革が起こってから変化が生まれるんですが、急速な変化は産業革命以後です。

まずはこちらをご覧ください。1900年のニューヨーク五番街の写真です。

1900年 ニューヨーク五番街

馬車がガンガンに走っています。ではその13年後、1913年のニューヨーク五番街の写真はどうでしょうか。それはこちら。

1913年 ニューヨーク五番街

びっくりしませんか。馬車が消えて大半が車になってしまいました。T型フォードです。

馬車の歴史は紀元前2500年頃です。つまり馬車って、4000年以上もの長きにわたって乗り物として使われてきたわけですね。

その長い長い4000年の馬車の歴史が、たった10年ほどで終わってしまったんですよ。

いや正確には10年ではないですね。T型フォードが誕生したのは1907年なんです。つまり6年ぐらいですね。

馬車の運転手、馬の世話をしていた人、馬具を作っていたメーカーはたった6年で失業してしまったわけです。あっという間もなかったんじゃないですかね。感覚的には一回まばたきしたら失職していた感じでしょう。

そしてT型フォードの発明というのは、乗り物の革命だけではないんですよね。

ベルトコンベアーを使った流れ作業方式や部品の標準化などのイノベーションを起こし、大量生産大量消費社会のはじまりとなったわけです。

たった一つの商品が、世界を一変させてしまったわけです。

この1900年から1910年っていうのは、世界史を見ても前例がないほど変化があった時代なんですよね。

でもそれに勝るとも劣らない急激な変化を、今僕たちも絶賛体験中なんです。

その現代のT型フォードは、スマホです。

初代Iphoneの登場は2007年です。その頃電車の中で、新聞や文庫本を読んでいる人の姿を見かけました。

ところがその十数年後の今は、電車で新聞や本を読んでいる人なんてどこにもいません。全員スマホに夢中です。

ほんと馬車から車に変わった十年と同じ期間で、風景が一変してしまったんです。

スマホに乗っとって変わられたのが、出版・映像メディアですよね。1910年代でいうならば馬車側の人たちです。

出版の歴史は前述のグーテンベルグから端を発しています。彼が活版印刷を発明したのが1450年です。

つまり出版の歴史はおよそ570年間です。それだけ変化がなかったものが、スマホの発明で大変革期を迎えています。

スマホは紙に変わる新たなデバイスなわけです。パソコンは持ち運びがしにくいという弱点がありましたが、スマホにそんな欠点はありません。

電車の暇つぶしの代名詞といえば紙の本での読書でしたが、スマホがその代名詞を根こそぎうばってしまいました。

おそろしいことにスマホって出版だけでなく、映像デバイスでもあるんですよね。つまりテレビもピンチなわけです。

そりゃここまで急激な変化だと出版業や映像業の人はうろたえますよ。まあテレビの歴史は数十年ほどですが、出版の歴史はなんせ560年ですからね。

出版業は560年間で細かな変化はあったでしょうが、基盤となるものは同じです。それが今、スマホが盤ごとひっくり返そうとしています。

僕も子供の頃から作家になりたいと考えていましたが、まさか自分が生きている間にこんな時代を迎えるなんて驚きです。紙の本が危機的状況になるなんて想像がつかないですよ。

1910年当時の馬車業界の人はもっと大慌てだったでしょうね。馬車の歴史は4500年ですから。パニックですよ。大パニック。

でもそんな中からエルメスのような企業が生まれるわけです。エルメスの前身は馬具メーカーでしたからね。

馬車の時代が終わって大ダメージを受けるわけですが、エルメスはそのピンチをチャンスに変えました。そこからファッションブランドへと華麗な転身を遂げたんですよね。

だから出版社やテレビ局も、エルメスを見習わないとダメなんでしょう。テレビ局はようやく重い腰を上げたという感じですが、出版社の中にはすでにデジタルにシフトして結果を出しているところもあります。

今後どの出版・映像メディアの企業が、第二のエルメスになれるのか。それが問われているような気がします。



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