任天堂を世界的企業に導いた哲学。『枯れた技術の水平思考』
横井軍平という名前をご存知でしょうか?
おそらくほとんどの方が知らないでしょうね。ただこの方、とんでもなく凄い人なんです。
横井軍平は任天堂の社員で、たくさんのヒット商品をこの世に生み出しました。
ウルトラハンド、ウルトラマシン、ラブテスター、光線銃SP、ゲーム&ウォッチ、ゲームボーイ。
僕より世代が上の方ならば誰もが知っているヒット商品ばかりです。特にゲームボーイなんかどれだけ遊んだかわかりません。
ゲームボーイは携帯型ゲーム機です。今思い出しただけでも当時のワクワクが止まりません。なんせファミコンを外に持ち出して遊べるようなものですからね。スマホの元祖みたいな感じでしょうか。
任天堂は元々花札やトランプを作る会社だったのですが、横井さんの入社でおもちゃメーカーへと転身を遂げます。
横井さんの奇抜な発想で生み出す商品で収益を上げたのち、ビデオゲームメーカーとして世界トップの会社となるわけです。
京都のちっぽけな花札会社が、世界の任天堂となったんです。
その礎を築いたのが横井軍平という一人の若手社員だったわけなんですね。
それはお金だけではなく、精神も含まれています。
横井さんにはある哲学がありました。それが『枯れた技術の水平思考』です。
新しい技術開発に莫大な時間や資金を投入するよりも、すでに存在する技術から本来の目的とは違う使い道を探した方が、斬新な商品を生み出せるという考え方です。
例えば『ラブテスター』という玩具があります。
男性と女性がお互いに手を繋ぎ、この銀色の玉を握れば愛情度を計れます。電流を測る『検流計』を応用したものです。
好き同士ならば当然手に汗をかいて電流が流れやすくなります。その電流量を愛情度と言い換えているわけです。面白いですよね。
奥手な男性が好きな女性と手を繋ぎやすくできるようにという発想で作られたものです。
なんの変哲もない検流計を、横井さんは斬新な発想で魅力的なおもちゃに変身させたんです。
検流計なんて安いものですからね。それを横井さんのアイデアでヒット商品に変えてしまい、利益を生み出したんです。
マジで凄くないですか。検流計なんてほとんどの人が知っているものじゃないですか。僕も理科の実験で使った記憶があります。
これを愛情を測るおもちゃにしようなんて発想、横井さん以外に誰も思いつかないですよ。
枯れた技術である検流計を、水平思考でラブテスターに生まれ変わらせる。これこそが『枯れた技術の水平思考』です。
他にもゲームボーイがそうですね。
初期のゲームボーイって白黒画面でした。カラーではなかったんですね。
ただ当時の技術としてカラー液晶にすることはできたんですよ。同時期にライバル商品として発売されたセガの『ゲームギア』はカラー液晶を使っていましたからね。
つまりカラー液晶が最先端技術で、白黒液晶が枯れた技術です。
普通の考えならばカラーにするじゃないですか。絶対色付きにした方が
売れる気がしますよね。でも横井さんはあえて白黒液晶を選びました。
まず第一の考えとして、ゲームの面白さにカラーも白黒も関係ないというのがあります。ゲームの中身さえ面白ければ、お客さんは白黒液晶でも喜んで遊んでくれる。横井さんはそう考えていたわけです。
それを象徴するゲームが『テトリス』です。テトリスってカラーでも白黒でもその面白さにほとんど変わりはないじゃないですか。
テトリスという横井さんの考えを象徴するキラーソフトがあったおかげもあって、ゲームボーイは大ヒットしたんです。
そして、白黒液晶の方がコストがだんぜん安い。おもちゃやゲームは子供が買うものです。だから任天堂は低価格にこだわります。
しかし最先端の技術を使うと、必然的にコストは上がります。莫大な開発費がかかっていますからね。
ところが白黒液晶などのすでに一般に普及されている枯れた技術は、コストを安く抑えられます。
任天堂のお客さんは子供です。そのため商品はなるべく低価格にしたい。それが任天堂の信念です。
だから横井さんは、枯れた技術を使ってコストを抑える工夫をしていました。
さらに横井さんが白黒液晶を選択したのは、乾電池の消費時間のためです。実はカラー液晶だと電池の消費量が激しいんですよ。ゲームギアは3時間ぐらいしかもちませんから。外に持ち出して遊ぶには少し短すぎます。
その点白黒液晶ならば、電池の消費量が少ないので十分に遊ぶことができます。
枯れた技術の白黒液晶でも、携帯型ゲーム機としての利点はたくさんあるわけです。
これが横井軍平の哲学、『枯れた技術の水平思考』です。
横井さんが任天堂を去り亡くなったあとも、この枯れた技術の水平思考という考え方は任天堂に根付いています。
任天堂の四代目社長・岩田聡さんはこう語っています。
横井軍平の残したこの哲学がある限り、任天堂は娯楽のトップメーカーとして君臨し続けるでしょうね。
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