活動システムマップで新規事業1:新たな自社の強みを発見する方法
NEWhでサービスデザイナーの酒井です。5年ぶりの更新となってしまいました。5年ぶりなので少しだけ自己紹介をしたいと思います。
普段は既存事業のある大企業の新規事業部署向けに、伴走支援の形でメンバーとして一緒に事業を作るお手伝いをさせていただくことが多かったり、新規事業支援部署の方と一緒に事業創出プログラムを考えて実行するようなことをしています。また、プライベートではStartupWeekendという3日間で知らない人たちと集まって事業アイデアを考えるスタートアップ体験イベントの東京・多摩と静岡・三島の運営もしています。
今回は新規事業をお手伝いしていく時にまだ「やることが何も決まっていない」フェーズでの解決方法で、これまで試行錯誤してきた中の1つをご紹介できればと思います。
事業開発の起点の3分類
事業開発の起点は主に以下の3つから始まることが多いかと思います。
顧客ニーズ起点
顧客の潜在的なニーズや課題を発見し、それを解決する新しい製品やサービスを開発するアプローチです。これは、デザイン思考やリーンスタートアップなどの手法を用いて、顧客の声に耳を傾け、ニーズを深く理解することから始まります。1980年代以降、マーケティング概念の発展とともにこの顧客ニーズ起点のアプローチが重視されるようになりました。技術シーズ起点
新しい技術や発明を基に、その応用可能性を探り、新規事業を創出するアプローチです。20世紀前半はこの技術シーズ起点の事業開発が主流で、多くの革新的な製品やサービスがこのアプローチから生まれてきました。既存事業の強み起点
企業の既存の強みやリソースを活用し、新たな市場や事業領域に展開するアプローチです。これは、企業の中核能力を活かしつつ、新たな成長機会を見出す方法です。
1と2に関しては2000年代に入ると、デジタル技術の急速な進歩により、顧客ニーズと技術シーズを融合させたアプローチが増加しています。また、オープンイノベーションの概念が広まり、外部リソースを活用した事業開発も盛んになっています。
今回から3回に渡って強み起点で始める場合の1つのパターンとして、「活動システムマップ」を使った方法をご紹介ししていきたいと思います。
起点とすべき「強み」とは何を示すのか
強みを探るアプローチとして経営資源から考えるのが最も一般的なアプローチです。ここでNEWhで利用している事業構想フレームワークValueDesignSyntax(以下VDS)を使ってご説明させていただくと、主に「自社リソース」の項目に当たります。具体的にはヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産の6つに分類できます。
このアプローチですと、わかりやすく、独立した強みが豊富な場合有効な手立てです。しかし実際に自社の強みとして理解されているものは強い点としての経営資源だけに限らないでしょうか。
※バリューデザインシンタックスについてはNEWhのビジネスデザイナーによるこちらの記事にて詳しく解説しています。
VDSの「活動/機能/仕組み」も自社の強みとしてみることができます。これは単体ではなく、複数組み合わされて発揮されるもの、例えば下記に挙げられるような企業活動が考えられます。
以上はどれも経営資源だけでなく、資源をどのように使うか、どういった企業活動を行うのかというところが強みの構築に大きく関わっていることがわかります。
今回、強みを探索するアプローチとして経営資源といった単体の要素からではなく、企業の活動に着目することで強みを見つけ、優位性を見つけることで強み起点の新規事業構想ができるのではと考えました。
優位性の要因を可視化する「活動システムマップ」
「活動システムマップ」は自社の優位性を分析するアプローチとして1996年にマイケル・ポーターが提案しました。これは、成功している企業には他社に容易に真似できない活動の複雑な組み合わせがあるという仮定に基づき、重要な要因を図式化するものです。基本的な考え方は、優位性を起点にそれをもたらす活動を洗い出し、活動同士を結びつけることです。この結びつきが複雑であるほど、真似が難しいとされています。
この図はポーターによって作成されたサウスウエスト航空の活動システムマップです。サウスウエスト航空はLCC(ローコストキャリア)として知られる格安航空会社の先駆けで、機体を共通化し、サービスを限定することによって、圧倒的な低価格を実現しました。図示されている色付きの⚫︎は、戦略的な選択としての「何をしなかったか」(トレードオフ)を示し、白丸⚪︎はその戦略的な選択を支える活動を示しています。
活動システムマップから強みを考える
では、この活動システムマップから強みをどのように考えればよいでしょうか。例えば、マップの左下の「無駄がなく生産性の高い地上・ゲート要員」に着目してみます。
この「無駄がなく生産性の高い地上・ゲート要員」は「従業員に対する高い報酬」「組合との柔軟な契約」「従業員の高い持株比率」という活動に紐づいています。この戦略的な選択と活動の一連のつながりのセットをサウスウエスト航空の強みとして考えられることができるのでは、というのが今回の記事の主旨となります。
この活動システムマップですが、日本では、ポーター賞という、独自性のある戦略によって競争に成功した日本企業や事業部に授与される賞があり、受賞企業の活動システムマップが約70例公開されています。この中から事例を引用させていただいて、強みを考えてみます。
活動システムマップと強みの例:株式会社ワークマン
ワークマンは建築に従事するプロ顧客向けワークウエアの専門店チェーンでフランチャイズにて運営されています。戦略的な選択もユニークなものが多く、「法人向け販売を行わない」「値引き販売を行わない」「買い取り型VMI(ワークマンが需要予測をし、ベンダーの判断で納入したものを全量買取)」などが挙げられます。
ワークマンの強みとして切り出せそうなものとして、「徹底した標準化と効率化」をピックアップしてみます。製品原価率を下げ、製品を共通化することで値引き販売をなくす→良質な販売データを形成→需要予測が正確にでき、データ経営が可能にる→自動発注システムが有効に動く→店長は開店5分前出社、閉店5分後退社が可能となる→社員が消耗せずに効率化を実行可能にということが見えてきました。
このように、2つの活動システムマップを比べてみると幅があり、かなり自由な表記法だなと思われるかもしれません。ただ活動に着目することにより、一見わかりやすい自社の強みが見えていない状況においても、既存事業から強みを分析し、言語化することができそうだ、という可能性を感じられたのではないでしょうか。
次の記事では活動システムマップの具体的なステップをご紹介したいと思います。
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