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愛ではなく、恋
「確かに恋愛には季節がある。春があり夏が来て、やがて秋になり冬となる。しかし、多くの恋は春のままで消えてしまう。気持ちを伝えられないまま、春のままで消えてしまう」
著者である林伸次氏は、以上のように感傷的なことばを本書のなかに書き記す。
私が重要だと考えるポイントは、本書が取り扱うのは〈恋〉であって〈愛〉ではないところだ。それは本書のタイトルにも表れている。〈恋〉というものは、〈愛〉に推移するものだから、〈愛〉のほうが高尚な概念だとふつう思われがちだ。なるほど、たしかにそのとおりだろう。しかし、人が囚われててしまうのは、むしろ〈恋〉のほうだろう。〈愛〉は真剣で真面目すぎる。それに比べて〈恋〉には甘酸っぱい想いや想い出がまとわりつくため、人を虜にして離さない要素がある。だから〈恋〉をした人間は〈だれか〉に話したくなる。だれしもがそういう経験をしたことがあるのではないだろうか。
その〈だれか〉は近すぎず、かつ遠すぎない関係性のなかにいる人間こそふさわしい。まさに林氏のようなバーテンダーこそふさわしい。小洒落たバーに見合った音楽が流れ、自身の口に合う酒に気持ちよく酔ったなら、さぁ、話すタイミングだ、恋バナを。
「この小説が出版されたら彼女は気がついてくれるだろうか」とあるように、本書は小説であり、同時にある種のラブレターである。恋をしている/していたすべての人々が宛先の小説である。あの恋をしたときの心が震える瞬間を追体験したい方にオススメしたい。