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【連続note小説】日向食堂 小日向真司63歳

あおいが病に倒れた。
文枝と同じ末期ガンだった。
病室のあおいを真司は毎日献身的に看病した。
しかしあおい日に日に弱っていった。
 
病床のあおいが真司に語り掛けた。
「もうトゲはなくなった?
 いろんな人からすぐにもらってくるからねぇ、真司君は。
まだあるなら抜いてあげたいけど、もう無理みたいね」
あおいは真司の心に刺さったトゲを、時間をかけて抜いてきた。
誰よりも真司のことを理解してくれた人だった。
 
「もうそんなもんないよ、全部抜いてもらったから。
もう大丈夫だ、安心していいよ」
 
あおいが永眠した。
真司は生涯でたった一つの大切な宝物を神様に召されてしまった。
「あおいを、あおいを連れて行かないでくれ」
真司の願いは儚くも神様には届かなかった。
 
そして真司は人生で二度目の嗚咽をした。
 
 

「忘れはしないよ 時が流れても いたずらなやりとりや
心のトゲさえも 君が笑えばもう 小さく丸くなっていたこと
かわるがわるのぞいた穴から 何を見てたかなぁ?
一人きりじゃ叶えられない 夢もあったけれど
さよなら 君の声を 抱いて歩いていく
ああ 僕のままで どこまで届くだろう」

(スピッツ「楓」)



真司が生まれてから人生を全うするまでを連載小説として描いていきます。

▼関連エピソードはこちら

<続く…>

<前回のお話はこちら>

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鈴々堂/rinrin_dou@昭真
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。