あのグローブの感触はぼくの左手が忘れていない
最初に買った野球用のグローブは、確か小学校四年生の時だった。
そらから新しいグローブを買うことはなかった。
新しいグローブが欲しいとも思わなかった。
なぜなら散々手入れして、手に馴染んでいたから、新しいものが必要なかったからだ。
結局は中学生の時に友達に貸して、潰されてしまった。
別に悔しいとか、惜しいとか思わなかった。
あー、もう使えないのかぁ、ってそんな気持ちだった。
小学校の頃はプロ野球選手になりたかった。
少年野球チームには入っていなかったが、友達と野球をやっていれば、いつの間にかなれるものだと思っていた。
だから小学生ながら、グローブの手入れはまめにやっていた。
しかし、大きくなって行くと現実が少しずつわかってくる。
プロ野球選手なんて夢のまた夢。
なれるはずもないと諦めてたら、グローブの手入れもしなくなった。
物置に放りっぱなしになっていた。
あんなに大切にしていたのに・・・。
あのグローブはぼくの夢の象徴だったのだろう。
なんでも願えば叶うと思っていた。
一生懸命磨いて、手に馴染ませて、夢を叶える準備は万端だったけど、ダメだとわかるとホコリまみれにされる。
"おまえが悪い"と言わんばかりに・・・。
何も悪いことなどしていないのに。
ただぼくが子供過ぎて、世の中のことをわかっていなかっただけなのに。
グローブがもし心を持っていたなら、打ちひしがれていただろう。
もし叶うなら、あのグローブをもう一度、ぼくの左手にはめてみたい。
あれから50年以上が経ったけど、散々手に馴染ませたあの感触はまだ忘れていない。
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小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。