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【連載小説】「八月の歌」第八話

 この少女は一体だれなのか、なぜ真司がコンビニへ弁当を買いに行くことを知っているのか。どう考えても怪しい。しかし詐欺まがいなことをされても取られる金など持ち合わせていない。いっその事、どこからか陰に隠れているチンピラが出てきて、打ちのめされてもいい。そう思った真司には、この少女のことがどうでもよく思えた。
 少女はコンビニまで真司の後をのこのこと付いてきた。真司は弁当を選んでいると、財布を忘れてきたことに気が付いた。
 
「財布を部屋に忘れてきから取りに帰るね。君とはここでお別れだね。」
 コンビニを出て行こうとした真司の腕を、その少女が掴んで引き止めた。
「財布を忘れたの。いちいち取りに帰るのも面倒臭いじゃない。盗んじゃいなよ」
「いや、そんなことはできないよ」
「大丈夫、大丈夫」
 
 少女は徐に真司が選ぼうとしていた弁当を掴み上げると、店員に見つからないように体の陰に隠して、何食わぬ顔でコンビニから出て行った。真司は慌てて少女の後に続く。
「ほら、上手くいったでしょ」
 少女は得意気に言った。
 
「もう心臓が口から飛び出しそうになったよ。こんなことして大丈夫なの」
 万引きなど全く縁がなかった真司は、息遣いが荒くなり、顔が青ざめていた。
「ばれなきゃいいの。じゃ、また明日ね」
 少女はそう言うと走り去っていった。一体何だったのか。真司は手渡された弁当を握りしめ、その少女の後ろ姿を見送った。


<続く>

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鈴々堂/rinrin_dou@昭真
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。