【連載小説】「八月の歌」第十五話
少女は服部の頭に拳銃を突き付け、カウンターの前に座る女性銀行員に叫んだ。その銀行員は突然のことで呆然としている。少女は有無を言わず発砲した。弾丸は銀行員の頬をかすめた。一瞬の静寂が過ぎると、銀行員の悲鳴が銀行内に響き渡った。
「ギャァァァァ―」
真司はその光景を言葉もなく見ていた。
—暑さのせいだ、あの子が狂ったのは・・・。
「おい、やめないか」
服部が少女に抵抗しようとした。
「うるせぇ、くそじじい、死ねっ!」
少女はそう叫ぶと、拳銃の引き金を引いた。
「やめろっ―」
真司は目をつぶって大声で叫んだ。
—ぼくは一体何をしているんだ。
真司は目を開けると、血に染まった服部が目の前に倒れていた。返り血なのだろうか。真司も血だらけになり、いつの間にか右手に拳銃を握っていた。
—何でぼくが拳銃を持っているんだ。
真司は事態を全く把握できない。気が付けば、警官隊が銀行内に突入してきて、狙撃体勢に入っている。真司は服部を人質に取って銀行に立てこもっているらしい。
—殺せ、殺せ、全員殺してしまえっ!
頭の中で誰かが叫び続ける。その声が少女の声なのか、自分自身の声なのかわからない。ただ少女の姿はどこにもなかった。
「真司、ここまで育ててやったのに・・・」
服部が蚊の鳴くような声で言ったが、無機質な真司の心には何も響かない。
「おれがおまえをここまで追い詰めてしまったのか。真司、すまなかったな・・・」
服部はそう言い残すと息を引き取った。その言葉を聞いた真司の心に、怒涛の如く感情の渦が流れ込んできた。
—えっ、何で社長がぼくに謝ったんだ。
<続く>
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