【連続note小説】日向食堂 小日向真司71歳
真司は孫たちとゴムボールでキャッチボールをしていた。
64年前に父・誠司と34年前に息子・幸次とやったキャッチボールだ。
まだ何とか体は動く。
まだ幼い孫のためにボールを転がしてやる。
孫は投げ返してくるが、なかなか真司のところへはボールがこない。
真司はその度にボールをひらいに行く。
孫のためにいくらでもひらいに行ってやりたい。
しかし自分の意思とは裏腹に、体が付いてこない。
苦しくなって休もうとすると、孫がそれを許してくれない。
"もうあの時と同じようにはいかないのか"
もう終わって家に帰りたいと思うが、次はいつ孫の相手をしてやれるかわからない。真司は自分の体に鞭を打ってキャッチボールを続けた。
翌朝、吾郎が日向食堂に出てくると、珍しく真司の姿がなかった。
吾郎が支度を進めていると、扉が開く音がした。
しかし誰の姿も見えない。
やがてヨタヨタと真司が歩いてきた。
「どうしたんだよ、オヤジさん」
「吾郎、歳は取りたくないなぁ」
真司は一抹の寂しさを漂わせながら、ポツリと言った。
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<続く…>
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