あの夏の日、ぼくたちは座敷童に出会った
短編小説「座敷童の引越し」のストーリーは当然ながら想像の世界の話だ。
しかし座敷童との出会いの場面は本当にあったことだ。
30年近く前の夏のことになる。
妻と岡山県の牛窓へ旅行に出かけた。
自家用車で予定よりも早く岡山に着いたので、どこかで時間を潰そうと思った時に、その遊園地の案内看板が目に飛び込んできた。
まるでそこに案内されるかのように。
郊外にあったその遊園地の名前は覚えていないが、今は閉園されているらしい。
どこにでもあるごくごく普通の遊園地だったが、時間を潰すには十分な施設だった。
物語に登場する忍者屋敷も実際にあったものだ。
入場券を買って中に入ったら、あの少女が入口の近くに立っていた。
「私が案内してあげる」って言われて、妻がついて行ったことも本当だ。
新婚だった妻との時間を邪魔されたくないと、最初は心よく思わなかったことも覚えている。
30歳前のいい大人だっだから、そこは作り笑顔で応えた。
その少女はやたらと忍者屋敷のカラクリに詳しいことは物語にも記載したが、歳の割に話し方がしっかりしていて説明が上手い。
今から思えば何度も同じ説明をしていたんだと思う。
よくよく考えてみれば、なぜあんな郊外にある小さな遊園地に小学生の女の子が1人でいたのか。
たまたま居合わせた訳じゃなさそうだ。
何度もその遊園地に来て、いろんな人に案内をしていたとしか思えない。
しかも場所が古びた忍者屋敷となるとシチュエーションもピッタリだ。
別れ際の逸話も本当のことだ。
ぼくたちを見送ったくれたが、忍者屋敷の土間から出てこなかった。
ぼくは歩き出して、何の意図もなくすぐに振り返って見たら、もうそこにいなかった。
時間にして1秒もなかった。
どっからどう考えてもおかしい。
その場で妻にあれは座敷童だと言ったことも覚えている。
かなり人懐っこい。
図々しいくらい。
それでいてあまりに一生懸命話すから嫌味がない。
最初は抵抗があったけど、いつの間にかその子が気に入っていた。
座敷童は人のことが好きみたい。
出会ったのは夏の暑い日だった。
冬はちゃんと厚着してたんだろうか。
座敷童には余計な心配かぁ。
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