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雲が演出する富士山のスペクタクルショー

30年以上前のこと。

ぼくが結婚することになり、親父とお袋を連れて旅行に出掛けた。

行き先はお袋のリクエストで富士山へ。

2泊3日の旅だったが、初日はなんと雨。

富士山は分厚い雲に覆われて姿を見せれくれない。

仕方がなく、自家用車で5号目まで上がった。

その時には雨は上がっていたが、雲は依然として居座っていた。

ぼくは親父に写真を撮ってもらおうと、少し高い場所に走って上がったら、呼吸困難になって、たいへんなことになった。

そんな話しはどうでもいいのだが、せっかく来たのに富士山を見られないとは残念でならなかった。

諦めきれないぼくは、真正面に富士山があるであろう方向に車を停めて、しばらく待ってみることにした。

どれくらい待っただろうか、かなり長い時間待った気がする。

そしてぼくら三人は、とんでもない光景を目にすることになる。

ぼくらが車を停めていた道路は、真っ直ぐに富士山に向かっていた。

その先を見ていたぼくらは、"あっー!"と大声をあげた。

その道路の先端から雲が左右に割れ出した。

富士山の中央からだ。

まるでモーゼの奇跡のように・・・。

雲は次第に右へ左へと移動していくと、その中央に待ちわびたあの勇姿が見え始めた。

麓の方から少しずつ見え始めると、やがて雲は頂上まで切り裂かれていった。

駐車していた位置がわからなかったのだが、思っていたより富士山に近かったので、迫力がすごい。

スペクタクルショーはこれだけでは済まない。

今度は雲が下から上へと移動し始めた。

劇場の幕が上がるように・・・。

雲は富士山の上方へと消えていったかと思ったが、頂上の少し上方に一部分を残していた。

その雲の破片が富士山の頂上を中心にして、リングを形成した。

笠雲と言われるらしい。

笠雲はしばらく消えることなく、頂上の上に居座り続けてくれた。

ぼくたちは唖然としてその光景を見ていた。

三人は言葉を失ったまま、いつまでも笠雲を見ていた。


あの旅はちょっとした親孝行だった。

神様が粋なプレゼントをしてくれたのだろうか、今もそんな気がしている。

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鈴々堂/rinrin_dou@昭真
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。