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この世の地獄のような場所だった

兄が末期がんで手の施しようがなかった。
手術は施したが、余命3ヶ月と宣告された。

ぼくは諦めずに治療方法を探した。

その当時、あまり知られていなかった免疫療法が、幸いにも近くの病院で取り扱っていると聞き、藁にもすがる思いで、その病院の診察室を訪ねた。

しかしまだ即効性はなく、それに病院のベッドが空いていないから、その病院に入院することすら叶わなかった。

落胆したぼくは、歩く力も失せて、診察室の前のベンチに座った。

訳もなく涙が出てきて、看護師さんがそっとテッシュを箱ごと置いていってくれた。

どれくらいそこに座っていただろうか。

子供の泣き声が聞こえた。
いやもっと前から聞こえていたけど、耳に入ってこなかっただけなのかもしれない。

その診察室の廊下を挟んで向かい側には小児病棟があった。

あれは泣き声と言うか叫び声だった。
子供が痛みと苦しみに耐えかねて叫んでいた。
それも一人や二人じゃない。

聞くに耐え難い。
こんな辛く悲しい場所が世の中にあるのか。

絶望したぼくの心に追い討ちを掛けるように、何人もの子供の叫び声にぼくは包まれた。

こんな心が打ちひしがれる場所に長居はしたくない。
しかし立ち上がる気力がない。
耳に手を当てても叫び声は消せない。

絶望が絶望を煽る。
地獄ってこう言う場所を言うのだろうな。


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