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親父はいつもぼくの右を歩いていた(後編)

それでも思い出が全くない訳ではない。

何某かの記憶はある。

ガラス窓越しの父子を見て思い出したことは、父と子が並んで歩く時の位置だ。

どちらかが右でどちらかが左。

ガラス窓越しの父子は進行方向を見て子供が右、父親が左。

親父はぼくと並んで歩く時は必ず右を歩いた。

なぜかと言うと、後ろから自動車が突っ込んできたら、明らかに右側を歩く人が撥ねられる可能性が高い。

だからぼくの親父はいつも右を歩いていた。

親父の影響なのだろう、ぼくも父親になって自分の息子たちと並んで歩く時は、右側を歩いていた。

窓越しに見たお父さんを批判するつもりは毛頭ない。

数十年前は道路が整備されていなくて、歩道なんてなかったから、歩いている人のすぐ側を自動車が走り抜けていた。

現代は道路整備もしっかりされていて、歩道を歩くにしても安全が確保されている。

だからぼくの親父のような気を使う必要もない。
しかし、万が一の事故のことを考えれば、右側を歩くことが子供を守ることだ。

ぼくの親父は何のインパクトもない人だった。
大した思い出もない。

しかし、小さかったぼくを守ろうとしてくれていたんだなって、ふと見た風景から、今頃になってそんなことを思い出していた。

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鈴々堂/rinrin_dou@昭真
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。