【連続note小説】日向食堂 小日向真司73歳
ある日の閉店後のことだった。
真司:「吾郎、ちょっと話があるんだ」
吾郎は心臓の鼓動が早まった。
吾郎:「なんだい、オヤジさん、そんなに改まって」
真司:「吾郎、もう気が付いているんだろ」
吾郎:「何を?」
吾郎はとぼけてしまった。肝心なことがどうしても言えなかった。
真司:「まぁ、いいよ」
吾郎:「いや、待ってくれ、おれの口から言わせてくれ。
オヤジさん、舌がどうかなってんじゃないか」
真司:「何だよ、わかってたんじゃないか」
吾郎:「ごめん、どうしても言えなくて」
真司:「あぁ、えらく気を使われたなぁ」
おれはもうお客さんに満足してもらえる料理が作れない。
すまんがこの店を継いでくれないか」
吾郎:「オヤジさん・・・」
吾郎は真司の無念な気持ちを考えると、溢れる涙を止めることができなくなった。
吾郎:「治療してどうにかならないのか?」
真司:「いや、舌だけじゃない。
指先の感覚もおかしくなってる。
目も見えてないんだよ」
吾郎は返す言葉がなかった。
真司:「今日までよくおれなんかについてきてくれたなぁ」
吾郎:「やめてくれよ、そんな言い方。
おれの方こそ、どこの誰かもわからないやつをずっと面倒見てくれて・・・」
その後はもう言葉にならなかった。
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<続く…>
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