心がほんの少しだけホッとする話し
職場にやたらと声の大きい人がいた。
それも不運なことにぼくの後ろの席だった。
そんな人に限っていつも電話をしていた。
一日の就業時間のうち、半分は電話しているように思えた。
仕事を始めようと思ったら、背後から大声を張り上げてくる。
どうにもこうにも仕事に集中できない。
彼も仕事をしているんだから文句は言えない。
もともと声が大きい人に小声で話せと言ったら、それがストレスになる。
(こっちはすでにかなりのストレスを受けているけど・・・。)
何よりも先輩に向かって文句を言いにくい。
ある日のこと、我慢の限界に達したぼくは、隣の席の若い後輩に仕事に集中できないと愚痴を言ってしまった。
「それなら良いものがありますよ」
後輩は執務室からぷいっと出て行ってしまった。
状況を理解できないぼくは、気にせず仕事を始めた。
相変わらず後ろからでかい声が鳴り響く。
しばらくして後輩が戻ってきた、
「これ、使ってください」
後輩がぼくに手渡したものは耳栓だった。
後輩は社屋内に文房具が保管してあるロッカーに、わざわざ耳栓を取りに行ってくれていたんだ。
「ありがとう」
後輩にそう言って、ぼくは耳栓を装着し、また仕事を始めた。
耳栓をしたからと言って、何も状況は変わらない。
後ろから聞こえる騒音ような声が遮断される訳じゃない。
しかし、何と言うか後輩がぼくに取った行動が何とも可愛らしくて、心がホッとした。
だから愚痴を言わないで仕事をしようと思えた。
それから三ヶ月ほど経って席替えがあり、そのうるさい先輩とはデスクが離れ離れになった。
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小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。