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【ショートエッセイ】不可能は静止した時間の中で可能になる
中学生の頃の運動会の話だ。
クラス対抗リレーは運動会で一番盛り上がる。
ぼくは陸上部だったのでアンカーを任された。
運動場に白線で描かれた楕円形のトラックは一周200m。
直線コースからスタートして、左回りに1回目のカーブ→直線コース→2回目のカーブ→ゴールとなる。
レースがスタートする。
ぼくのチームはスタートダッシュに遅れて、なかなか順位を上げられない。
ぼくにバトンが渡された時、順位は5人中4位。
ここからぼくの逆襲が始まる。
バトントスが上手くいって最初のカーブに差し掛かる前に早々に一人抜き、直線コースで追い上げを開始。
2人を抜いて2位にまで順位を上げた。
後1人、スリップストリームに入った。
だが2回目のカーブに差し掛かかってしまった。
カーブでは遠心力がかかって、抜くのは絶望的に難しい。
カーブを曲がり切ってすぐにゴールがある。
このカーブで抜かなければ勝てない。
"もう無理かぁ"、なんてぼくは微塵にも思わなかった。
"どうやってカーブで抜き去るか"、スローモーションのように流れる時間の中で、ぼくは一瞬の隙も見逃さないように前走者の動きに集中する。
遠心力に抗っているのはぼくだけじゃない。
逃げる前走者に焦りが・・・、白線から少しずつ離れていく。
距離にして20cmほど。
ラストチャンスだ!
これを逃せば二度とチャンスはない。
ぼくはギアをあげて、その隙間に身体を潜り込ませた。
しかし遠心力に逆らえない。
ぼくはさらに身体をトラックの内側に傾けた。
"ダメだぁ、体勢を維持できないっ!"
身体を傾けすぎた、減速しなければトラックの内側に倒れ込んでしまう。
倒れてしまえば最下位だ。
"どうする?"
またゆっくり流れ出す時間の中で、ぼくは打開策を模索する。
いや、あの時は時間が止まっていたように感じる。
そして意を決した。
"このままだぁ、行けっーー!"
"なんだっ、何をやった!"
"あいつ、やりやがったぁ!"
トラックの周りにいた中学生たちから、どよめきが起こった。
ぼくは左手に持っていたバトンで地面を突いて体勢を立て直していた。
無意識に起こした行動で遠心力を制し、たった20cmの空間をこじ開けた。
そしてそのまま一位でゴールした。
その後、この話を何人もの人にしてきたが、なぜか誰も信じてくれない。
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