【連続note小説】日向食堂 小日向真司42歳
日向食堂の近くに高校があった。
部活の帰りに日向食堂に立ち寄る高校生も少なくない。
安くて、美味くて、ボリュームがあるから高校生の間でも評判だった。
その高校の野球部の学生が、部活の後に日向食堂で晩御飯を食べていくことが度々あった。
数人の高校生に中で、一人だけ何も注文せずに水を飲んでいる球児がいた。
見るからに細い身体をしている。
その子が一人トイレから出てきた時、真司は話しかけた。
「めし、食べる金がないのかい?」
「はい、家が貧乏でして・・・。でも野球をやらせてもらっているだけありがたいと思わないと・・・」
「家に帰ったら晩御飯はあるのかい?」
「いえ、母が夜の仕事で・・・、毎晩カップラーメンです」
「それじゃ野球なんてできないだろ、毎晩うちに寄ってメシ食っていけ。ただし他の子には内緒でな」
本田利次と言う名の高校球児は、それから度々日向食堂に訪れて、腹いっぱい食べて帰るようになった。
お腹がいっぱいになるという感覚を噛みしめながら。
「オヤジさん、ぼく必ずプロに入ってご馳走になった分、お返しします」
「いらないよ、それよりちゃんと夢を叶えるんだぞ」
真司はこの高校生に、自分の生い立ちを重ねていた。
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<続く…>
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