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ぼくは一人で喫茶店に行けない

一人で喫茶店に行ったのは30歳を過ぎていた。

誰かと一緒なら何度となく行った経験はあったが、どうしても一人で行く気になれなかった。

なぜだかわからない。

ファーストフードやラーメンなら一人で行けるのに、喫茶店だけはダメだった。

勝手なイメージだが、昼ごはんを食べるのは必要に駆られて、たとえ一人だろうが行かざるを得ない。

そうやって何度も行くうちに慣れてくる。

喫茶店は時間が余ったから、時間を潰しに訪れるというイメージがある。

ぼくは時間を潰すという習慣がなかったのかもしれない。

会社の出張で早く着き過ぎたときは、出先の会社の前で調べごとをしたり、携帯電話で仕事の段取りを確認したり・・・。

それも何度もそんな機会がある訳ではない。

平たくいうと喫茶店に一人で行く必要がなくて、勝手に一人で行きにくい状況にしていたってことになる。

ある夏の日のこと、どうしても出張先で1時間ほど早く着かなければならない社用ができた。

前日に妻に何をやっても待てば良いか相談したところ、やはり喫茶店に行きなさいとの返答。

そこで人生初の一人喫茶店を決行することにした。

出張先の最寄駅を降りてすぐに喫茶店を見つけた。

古風な昔ながらの喫茶店だ。

扉を開けて中に入る。

どうもそわそわしてしまう。

注文を聞かれて"アイスコーヒー"の一言がどうしても言えない・・・、なんてことはなかった。

すんなり注文して、30分ほど本を読ませてもらって何もなかったように店を出た。

初一人喫茶店、なんてことなかった。

と言うか、真夏に歩き回るより数百円で快適な場所でリラックスできる。

なんとありがたい場所だ。

それから一人喫茶店を何度経験したことだろうか。


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鈴々堂/rinrin_dou@昭真
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。