【読書感想_2】小さなトロールと大きな洪水
ムーミンシリーズの一作目。
他の作品は少し読んでいるけど、これはちゃんと読んだことが無かった。
これを機にシリーズを通しで読んでみようと思い、読んでみた。
初期ならではの作品感に溢れていて、そこが何とも言えない魅力になっていた。
世界観もキャラクターの性格もまだしっかり固まっていなくて、二作目以降のムーミンシリーズとはやや雰囲気が異なる。
読者と物語の距離が、他の作品よりずっと遠い。
離れた所から、ムーミンたちの旅の様子をそっと見ている感覚があった。
ストーリーも、随分と柔軟で型にはまっていない。
何だか自由だなあと驚いた。
チューリップの妖精が旅の仲間に加わったり、お菓子でできた庭が出て来たり、突然ジェットコースターにも乗る。
起承転結というよりは、もう色んなことが次から次へと起こる。
洪水や海での大嵐やパパの失踪など、なかなか大変なことが幾つも起こっているのに、なぜかどこか淡々としていてそれもまた面白い。
作者は、肩の力を程よく抜いて、自由に書いていった話なんじゃないかなあと感じた。
そのゆらぎ加減が、力まず素敵だなあと思う。
続くムーミン作品では、もっと世界観が統一されていくけれど、ここではまだ始まったばかりの世界がある。
書かれたのが戦争中とのことで、作者の胸中には様々な想いがあったと思うし、不透明な不安感も物語には漂っている。
それでも、どこかするりと抜けた感覚を物語から感じた。
作者は、本作と他のシリーズ作品との違いが気になって、書き直しも試みたようだけれど、結局最初の作品のまま世に出した。
書き直されなくてよかった。
完璧な物語もそれはそれですごいけれど、ゆらぎや作品が変わっていく様子を感じられることも貴重だから。
他の作品との雰囲気の違いはあるけれど、ママはやっぱり優しいし、ムーミンは礼儀正しい。
スニフはいきなり冒頭で登場してびっくりした。ちゃんと臆病でかわいかった。
何といっても、挿絵が本当に素敵。
(ニョロニョロにはまだ足があった!)
そして、物語最後の一文がまた、なんとも笑えて好きだった。
次は、「ムーミン谷の彗星」だ。
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