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太陽が爆発しても、8分間世界は変わらずに明るい
太陽と地球の距離は遥か遠く、太陽の光が地球に届くまでに8分間かかる。
そのため、太陽が爆発しても8分間、世界は変わらずに明るい。
2011年に公開された映画、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』はそんな「8分間」について考えさせられる。
この映画は、2001年9月11日に起きた9.11アメリカ同時多発テロ事件で、最愛の父親を亡くしたアスペルガー症候群の少年が父の死を受け入れていくまでが描かれている。
私自身、この時期になると必ず見返す作品でもある。
どうやっても埋めることのできない大きな喪失と、それを引き受けて生きていくこと。
重いテーマながら、そこにある「人間愛」に心を打たれる。
ものすごくうるさいことは、ありえないほど近くにあって、それは誰の元にもある
死別は、誰もが経験することではありながら、その経験は人それぞれちがう形で訪れる。
「突然大事な人を失った人々が、どのように癒されていくのか。いまだ癒されることなく苦しみを抱えているのか。それを理解したかった」
そう語るスティーブン・ダルドリー監督の言葉がとても印象的で、自分自身の回復への過程も、同時に考えさせられる。
この映画の中で、主人公のオスカーは苦手なものが増える。
公共の乗り物、歳を取った人、走っている人。
飛行機、高いビル、閉じ込められるもの。大きな音、悲鳴、泣き声、歯がボロボロの人。
置き去りの鞄、置き去りの靴、親といない子供、鳴り響くもの、煙を出すもの。肉を食べる人、見上げる人。
タワー、トンネル、スピードが出るもの、うるさいもの。ライトがあるもの、翼があるもの、そして、橋。
それは、オスカーにとって事件を思い出させるものでもあり、いつも通り訪れる「日常」で生活していくことの苦しさを実感させられる。
正直、映画の途中で苦しくなるシーンもある。
そんな中でも、お父さんを失って苦しんでいた彼が、実は知らぬ間に同じく何かを失って苦しんでいた人々を助けているように感じる。
そして、少年であるオスカーにとっては、母親の心配はものすごくうるさく聞こえる。でも、ありえないほど近くで、愛情を注いでくれている。
この映画のタイトルに込められた意味は、決して一つではないように思う。
ニューヨークで実際にみた景色
私がはじめてニューヨークを訪れた時は、崩壊したワールドトレードセンター跡地で再建工事を行なっていた。
たくさんの作業員たちが黙々と作業を行なっている光景がなんとも言えなかった。
2度目に訪れた時は、ワールドトレードセンター跡地となるグラウンドゼロが完成していた。
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巨大な慰霊碑が、2つのビルの大きさを痛感させる。
見違えるほど綺麗になった景色に、とても、あんなに大きなビルが2棟もあったとは想像ができないほど、頭の上にはあまりにも綺麗すぎる大きな空が広がっている。
ニューヨークでは、常にクラクションの音、パトカーのサイレンの音、ストリートパフォーマンスの音楽、人々の会話、あらゆる音が鳴り響いている中、この場所はすごく静かで、ゆっくり時間が流れているように感じた。
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実際に現場を訪れると、映画の中だけで起こったことではなく、現実に起こったことなんだ。という実感と、ここでそんなことが本当に起こったのか、という感情が交差する。
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犠牲者の誕生日には、その人の名前が彫られたところに白いバラが置かれる。
近くには、日本人の名前も多く見つかった。
死別は、生きていれば誰でも経験することではありながら、作品の中でのオスカーの姿には、「それでも生きていく」現実を考えさせられる。
お父さんが生前、オスカーに残した「試してみなくちゃ、分からないだろ」という言葉には私自身、何度も背中を押される。
生きてみなきゃ、わからない。
「それでも生きていく」という勇気を、オスカーをはじめこの映画に出てくる様々な人の人生から気付かされる。
世界平和、というとどうしても漠然としてしまうけど、それぞれの人の近くにいる、大切な人たちと、その大切な人たちが、毎日少しでも穏やかな日々を送れる世界であることを願いながら、日常を、目の前の人を、たいせつにしていきたい。